第26期竜王戦挑決三番勝負第3局 森内俊之名人-郷田真隆九段 前人未到のハイジャンプ。
スガシカオですね。もはやなつかしい。
今更ですが9/9、竜王戦挑決は第3局。決着局です。
第1局を相掛かりから郷田九段が、
第2局を横歩取りから森内名人が、
ともに先手を制して再度の振り駒。結果、森内名人の先手に。
相居飛車の伝統、「決着局は矢倉で」。
定跡系の進行から後手が変化し、先手がその問いに答える。
延々と続いてきたその探索の過程で、
森内名人が郷田九段からの問いを、鮮やかに突破しました。
振り駒の結果、先手森内名人、後手郷田九段。
竜王戦挑決は持ち時間各5時間。
戦型は、▲7六歩△8四歩▲6六銀から相矢倉に。
現代矢倉の花形定跡、4六銀・3七桂へ。
いわゆる(新)矢倉24手組からの最頻出手順なのだが
当ブログではなぜかあまり扱っておらず、
最後に触れたのは、どうやら名人戦第5局にまで遡る。
(そのあと、森内-木村でちょこっと触れましたが)
矢倉自体は脇システムや急戦矢倉等、結構扱っているんで
この名人戦第5局のponanza新手の手順が衝撃的で、
このサイトで主に紹介している公式戦のタイトル戦近辺では
トップ棋士たちがあえて踏み込んでいないのかもしれない。
ただ今回は、森内名人が先手。
当然新手近辺は森内名人の研究があるはずなので、
郷田九段から変化していくことが濃厚だった。
後手は9筋から仕掛ける順を選択。後手が先に1歩手に入れることができる一方で
先手は▲9六歩から香を入手する権利を持つ。
後手が歩をどう使うか。その構想が問われるところ。
この△5三銀が郷田九段の趣向。新手のようだ。
直前に△4五歩と仕掛けて先手の銀を3七に引かせて
(▲同銀では後手が1歩入手しているため△4四歩で銀が詰む)から
一度守りのため4二に引いていた銀を再度上がるという手。
この銀は、のちに出る▲4四歩を消すという意味がある。
すなわち、実戦例ではここから▲4六歩△同歩▲同角から角交換、
▲同銀に△2七角と飛車香両取りに進むのだが、
ここで飛車を3七に逃げて△1八角成と馬を作っても、
▲4四歩の反撃が激痛で、先手よしとされている。
が、本譜のように△5三銀と戻っていれば、
▲4四歩を消し、先の△2七角打が生きる展開になり、後手よし。
先手は別の将棋をつくることが求められる。
森内名人の選択は飛車の4筋スライド。
▲4六歩△同歩から、単に角交換になった場合には
△2七角と飛車を狙われるが、それを先逃げした形となるのに加え
角交換の際に▲4六同飛と飛車を中段に持ち出すこともできるうえ
先手は保留している▲9六歩(香の確保)や
▲7一角(飛車に当てながら馬を作る筋)も残っていて味がよい。
一方、後手は指す手が難しい。よって、郷田九段は長考の末、△9二飛。
▲7一角の筋を先逃げしつつ、▲9六歩を牽制し、先手に手を渡す。
森内名人も時間を使った上で、慌てず▲4九飛と一段引く。
可動域の広い飛車を、2手で2マス。静かに力をためる。
この手が好手だったようだ。手渡しなのだが、やはりここで後手は指す手が難しい。
先手は「△5三銀と上がったのだから、△4四銀とあがってきなさいよ」
と誘っている。確かに、後手は4筋に銀を繰り出して局面を動かす以外に
手がみえないのだが、しかしそれは2手前とほぼ同じ状態。
先手の読み筋に誘導される形になりそうだ。
郷田九段は長考の末、△4四銀を決断するが
以後、先手が優勢の流れを変えることができなかった。
微動で力をためていた先手の飛車は、4筋の攻防から縦横に大きく動く。
ハイジャンプからサイドステップ、8五まできた。
エースが自在に動ける局面は、当然先手がよいはず。
後手は歩で進撃を食い止めたいが、先手に歩切れを強いられて痛い。
先手優勢を確信させるシンプルな放り込み。
9筋の攻防を制し、飛車が突破する展開となれば
形勢はさらに先手に傾くだろう。先手は囲いがしっかりしているのも強み。
逆に後手は9筋突破を許してはならない。必死の防戦。
結果、飛車を敵陣深くまで引かせた。
が、先手は9筋の攻防に後手を縛っておきながら、ここで▲6四歩打。
サイドに相手を集めた隙に、中央にと金を作って囲いを崩しにゆく。
「垂らされてしびれたですね」とは感想戦における郷田九段のコメント。
そして投了図。
先手は、と金、成香、桂の小駒の攻めで後手の囲いを1枚ずつはがしてゆき
玉まわりを裸にした。続く▲4二桂が詰めろだが、
後手から切り返せる順はなく、投了もやむなし。
郷田九段が仕掛けて、森内名人がその趣向に挑むという形でしたが
森内名人がじっと飛車を引いた▲4九飛が好手で、
それを郷田九段が咎めることができず、
先手ペースとなったという感じでしょうか。
郷田九段は、初の竜王戦挑戦を目指しましたが、かなわず。
本年度は、棋聖戦(対渡辺竜王)、王座戦(対中村六段)に続いての
挑決進出だったのですが、
すべて異なる対局者に敗れるという結果となりました。
しかも、決着局は全部振り駒で後手を引くという不運。
ただ、竜王戦挑決に関しては、第1局では完勝だったものの、
第2局、第3局では名人の対応が完璧だったので、
やむをえないというところだったかもしれません。
一方、森内名人は谷川九段、羽生三冠、郷田九段と連破しての挑戦権獲得。
郷田九段との挑決第1局では遅れをとりましたが
それ以外の対局は磐石な将棋で充実ぶりを感じさせました。
本局では、名人の飛車遣いが印象的でした。
じっと力をためたかと思うと大きく動かして盤面を縦横無尽。
最後はじっと9筋を守り、小駒で敵陣を攻め潰す。
▲4九飛は、のちの大飛躍のための助走のようにみえた。
本戦開幕前に渡辺竜王が予見していたところは
「羽生・森内が本命、対抗」。その通りの結果となりました。
森内名人が竜王位を確保したら、史上初の40代竜王名人。
そのキャリアにおける、最高峰への挑戦となりました。
10連覇か、竜王名人か。
奇しくも現在の渡辺竜王の連覇記録は、
森内名人から竜王位を奪ったところから。
「前人未到の奪還」にむけて、
森内名人の大いなる挑戦が始まります。