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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第26期竜王戦挑決三番勝負第1局 郷田真隆九段-森内俊之名人 非連続的エルドラド。

第26期竜王戦挑決【第1局】【第2局】【第3局】

【渡辺竜王による本戦展望】
【本戦参加棋士のコメント】

8/15は渡辺竜王への挑戦権をかけた挑戦者決定戦三番勝負第1局。
本年の挑決進出者は、いわば「羽生世代ランキング戦」を勝ち抜いた
森内名人(1組2位)と郷田真隆九段(1組4位)。

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決勝トーナメント右山を勝ち上がった森内名人は、
谷川浩司九段羽生善治三冠を撃破して4年ぶりの挑決進出。
名人戦を圧勝で防衛したほか、王座戦でもベスト4にまで進出するなど
他棋戦でも結果を残しており、充実ぶりがうかがえます。

一方、初の挑決進出となった郷田九段も充実ぶりではひけをとりません。
棋聖戦王座戦でも挑決まで勝ち上がり、7大タイトルのうち
これが今期3回目の挑決。惜しむらくは、これまでは2度とも後手番を引き
敗れたこと。第1局で先手を引いた今回、3度目の正直となるか。

本譜は相掛かりから早々に前例を離れ、構想力勝負に。
しかし、勝負は意外な大差となりました。


【棋譜中継】特設サイト

振り駒の結果、先手郷田、後手森内。

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本譜は▲2六歩、△8四歩から相掛かりとなった。
先手引き飛車棒銀、後手8四飛型では、ともに飛車の位置は
相掛かりではオーソドックスな形なのだが、既に前例がない。
後手の9筋打診に先手が応じず、後手が突き越していることと
先手が▲6八銀としていることが目をひく。

本譜は▲6八銀から▲5六歩、▲5七銀と活用するのだが
これは山崎八段が好んで用いる指し回しだ。
もともと相掛かりは力戦模様になることが多いが、
郷田九段が独創的な序盤で知られる「山崎流」っぽい形を採用し
積極的に力戦を仕掛けたようにみえる。

一方、森内名人と相掛かりといえば
なんといっても今期名人戦第1局、第2局。
この相掛かり連戦で連勝し、防衛につなげている。
力戦勝負は望むところだろう。

双方、構想力がものを言う展開。序盤から時間を使ってじっくり進む。

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後手はひねり飛車。
端の位を生かし、名人の裏芸でもある石田流のノウハウを活用する展開に。

この段階では、先後の完成度が段違いにみえる。
後手玉は美濃囲いができているが、先手陣の金銀はバラバラだ。
特に7七金が目立つ。これは後手の飛車が3筋に転回する前の
△7四飛(42手目)を受けたもので、ひねり飛車(縦歩取り)の基本手順。

先後は逆だが、かつてひねり飛車が「必勝戦法」と
呼ばれていた時代によくみられたという形で、
この場合は先手陣に悪形(7七金)を強いた後、飛車を転回し3筋突破を狙う。
だから後手にしてみれば構想どおりということになるはず。

しかし、裏を返せば、郷田九段は「それでも指せる」とみて
あえて▲7六歩、▲7七金としたとみることもできる。
特に先手は2枚の銀をひねり飛車側に展開できる。

どちらの構想が上回っているか。この時点では後手が指せるようにみえるのだが。

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先後の攻防の舞台は1~3筋。先手は2枚の銀で、
後手は石田流本組から突破を狙うが、バチバチ火花を散らす膠着状態。

その間に先手は着々と陣容を整え、
「なんということでしょう」
金銀バラバラだった囲いが、匠の粋な計らいでみるみる立派な矢倉に。

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囲いがまとまったことで、先手は右辺でもプラスの手を指せるようになった。
後手の飛車をどかし、ついに棒銀が飛車先を突破。
気づけば先手が指せる展開に。
ここから玉頭戦に突入していくのだが。

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その玉頭戦のさなかに先手陣に現れた金三枚の矢倉。
棋譜コメでは「黄金矢倉」と形容されていた。
3一の竜も後手玉を睨み、先手優勢は間違いない。なんという以下略。

それにしても、43手目に▲7七金としたときに
だれがここまでの囲いになると考えていただろうか。
郷田九段の剛腕、構想力が盤面をリードしている。

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攻め合うも、この匕首の歩が決め手。
△同金に▲5三角が攻防に利く。厳しい。

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そして投了図。
後手玉は▲7一角成からの詰めろだが、
先手玉に詰みはなく投了もやむなし。


というわけで第1局は郷田九段が制しました。
展開的には、郷田九段の構想から作戦勝ちとなり、
そのまま着実にリードを広げて勝ち切ったというところでしょうか。

棋譜コメントをみると、実際には玉頭戦になった時に
郷田九段が危ういと思っていた順があったそうですが、
それでも先手が余していたようで、完勝と言っていい内容だったと思います。

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森内名人の感想戦のコメントを見ると
「△3五歩と突いてからボロボロになりました」としており
すでに40手目の△3五歩の段階で作戦負けを自認していたようで
つまり、先後の陣形差や狙いの明瞭さからひねり飛車が指せるとみられていた段階で、
対局者自身はもう指しにくいとみていたようです。

ということは、先手の▲7六歩から
▲7七金とした誘いは狙いどおりだったということになる。
本譜は相掛かりから定跡なき局面での構想力勝負となりましたが
作戦段階で大勢は決してしまった、と取ることができるかもしれません。

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ただ、思うに郷田九段は、さらにその前から
こういう展開を想定していたのではないか。

むろん、これは単に想像でしかありませんが
相掛かりの序盤から山崎八段的な銀上がりを見せて構想力勝負を仕掛けるというのは
事前に相当な準備があったのではと思えるのです。

森内名人は最近、横歩取りを受けていません。
近い対局では、横歩を得意とする羽生三冠、谷川九段、中村六段と対峙した時、
意図的に横歩を消す指し手をみせています。
先手が初手▲2六歩とすれば、△8四歩としてまず相掛かりとなる、
と読みを入れていたのではないか。

先手番では、相掛かりに絞って対策を立てる。
少なくとも第2局まではそれで1局は将棋を作れる、
そういう準備をしていたのではないか、と。

空想(妄想)はさておき、郷田九段が先勝。挑戦者に大きく近づきました。
ただ、第2局では、鬼門である後手角換わりが予想されます。
(おそらく、郷田九段は受けるでしょう)

まだ、簡単に終わりそうもない気がします。
というか、第3局までもつれてほしいです。