第26期竜王戦第2局1日目 渡辺明竜王-森内俊之名人【急戦矢倉】。
第26期竜王戦 【第1局①/②】【第2局①/②】【第3局①/②】
やたらに長いので、
1日目と2日目のエントリを分けることにしました。
竜王に挑むは名人。竜名戦となっている
第26期竜王戦は10/28・29、第2局が開催。
第1局は、後手の渡辺竜王が急戦矢倉を仕掛けたものの、
森内名人が手厚い差し回しで徐々にリードを奪い、
終盤竜王が追いすがりますが、森内名人が勝ちきりました。
そして迎えた第2局。
後手番の名人は、第1局で竜王が用いた急戦矢倉を
今度は自らが持って竜王を迎撃します。
竜王戦は2日制。持ち時間は各8時間。
第2局、先手は渡辺竜王、後手森内名人。
会場は北海道富良野市「新富良野プリンスホテル」。
戦型は第1局と同じく
▲7六歩△8四歩から▲6八銀と矢倉の出だしとなった。
急戦の含みを残す△7四歩。桂の活用というより
5筋歩交換となったときの角の逃げ場所を作る意味。
実際には、通常の相矢倉でもこの歩は突くことになるのだが
このタイミングで△5二金と持久戦を明示することも多い。
例えば、今年度名人戦第5局、森内名人が△3七銀新手で
名人防衛を決めた局では、△5二金としている。
よって、多少の予兆を感じさせつつ先へ進む。
18手目△5三銀右。
来た。急戦矢倉だ。
第1局と、先後を入れ替えて同じ戦型。
森内名人がこれで後手番でも勝てばいわゆる「往復ビンタ」。
この戦型での「格」をはっきりさせようという、強い手だ。
どうしても思い出すのはやはり今期名人戦第1局・第2局。
森内名人が相掛かりの将棋を連勝して一気に波に乗った。
竜王戦でもその戦略を貫く。
ただこの方針は、決まれば相手に大ダメージを与えるものの
思う以上にリスクフルだ。第1局で竜王が仕掛けてきた以上
渡辺竜王にも当然最近の研究が蓄積されているはずで、
あえてそこに踏み込むことになる。
さらに言えば、矢倉の名手である森内名人自身が、
過去1勝4敗と急戦矢倉を持って率を残していない。
採用数自体も少ない。伝説の第21期竜王戦など、
急戦矢倉が渡辺竜王の代名詞の戦術であることを考えれば、
多少の自信で踏み込める領域ではない。領域ではないが、
それでも急戦矢倉を選んだ。森内名人の覚悟。
渡辺竜王はある程度時間を使って定跡形となる▲2六歩。
以後、数手は第1局をなぞって進む。
ここで先手から第1局の流れから離れた。
第1局では▲6八角と穏やかな流れになったのだが
本譜▲7五歩は、7三に引いた後手の角をそうやすやすとは
休ませないよ、と圧力を掛けに行く手で、激しい展開になる。
棋譜コメントにもあるが、
△渡辺-▲羽生の第21期竜王戦第6局がこの展開(後手勝ち)。
その第21期竜王戦第6局で指された渡辺新手△3一玉を
本譜では森内名人が援用する。
先手からは▲6五歩からの角交換を含む激戦が見えているが
その筋から先逃げしておこうという冷静な手で
指された当初は疑問視すらされていたが
この局面で自陣に手を入れる1手の価値が大きいと評価され
現在では定跡化している。
ちなみに、この局面は森内名人も先手番で経験している。
第70期名人戦第3局、相手は羽生二冠(当時、先手勝ち)だった。
つまりこの局面、渡辺竜王も森内名人も、
羽生三冠を挑戦者として迎えた竜王戦、名人戦で経験したことがあり
いずれも羽生三冠が持っていた方(負けた側)で指していることになる。
そのどちらの前例からも離れた△3三桂。
先に挙げた第70期名人戦第3局では△3三銀としていた。
この手は公式戦では昨年5月に行方八段が採用した新手だが、
直前に行われていた第3局の感想戦で、
「△3三銀では△3三桂で後手指せるのでは」との見解から
採用したところ後手勝ちとなり、その後も勝って2連勝中。
このため、実戦では遡って29手目では▲7五歩の仕掛けが見送られるようになり
▲6八角の採用が増えているという経緯がある。
渡辺竜王は、あえてその定跡に挑戦したということになる。
右図△7五歩が後手側には大きな一手。
新手だが、村山慈明六段などが研究していた手だという。
▲同歩では△同飛から△2五飛と飛車交換を挑んだときに
△2五桂で交換となって活用できるのが強み。
かつ、飛車交換が入ると、先手陣は△2八飛の打ち込みが激痛。
これは後手の注文通りに見えてしまうので同歩とはできない。
かといって別の手でも△7六歩が△8六歩とセットで囲いに手をつけられる。
まだ初日の展開だが、ここから数手で控え室では
「先手は指す手が難しいのではないか」、などと言われていた。
が、竜王は左辺をそこそこに1筋を伸ばす。
この構想に控え室、ニコ生とも先手の評価を見直した。
△3三桂は5一金4二銀型を維持しながら2筋に利かした手だが
反面、1三の地点が弱くなる。その地点を歩と香と角とで狙撃する狙い。
2筋の飛車の攻めとあわせられればかなりの迫力だ。
先手はこの瞬間では後手より囲いが固いため、
右辺での攻撃が刺されば左辺に手を入れた後手の絡みつきを
咎めることにもなる。それぞれの主張が盤面に現れだした。
そして1日目、封じ手の局面。
比較的先手の手の広い局面で封じ手を渡すのは呼吸か。
▲7五歩、▲2六飛、▲1四歩、▲9六歩などが候補として挙げられていた中で
竜王の封じ手はそのどれでもない右図▲1八飛。
端攻めを強化しながら、角のラインから先逃げしている。
渡辺竜王は、封じ手で意表を突くことがままあり、
これもその一環と思われた。
しかし、この手には竜王の見落としがあり、
結果それが2日目の形勢に響いていくことになる。
・・・ということで、2日目に続きます。
1日目が終了した時点及び2日目が開始した時点では
まだ形勢は難解だが、ニコ生解説の豊川七段、鈴木八段ともに
「先手を持ってみたい」との見解だったように聞きました。
よって「後手指せる」とされた急戦矢倉▲7五歩からの分かれは
実際には互角の展開だったのかな、と思います。
が、2日目はほぼ形勢がワンサイドになって行きます。