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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第26期竜王戦第3局 森内俊之名人-渡辺明竜王 無筋からの刃。

第26期竜王戦 【第1局/】【第2局/】【第3局/

11/7・8に行われた第26期竜王戦第3局は2日目。
1日目は香損で馬を作られることを承知の上で玉形を整備し、
先手陣が整う前に攻めきってしまうことを目指す渡辺竜王に
堂々と受けて立つ構えの森内名人という雰囲気のところで封じ手

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既に1日目終了時点で
「竜王が細かい攻めを繋ぐか、森内名人が断ち切るか」という
黄金パターンが予想されたところでしたが、しかし。
その予想をはるかに超えた激戦となりました。

棋譜中継】(特設サイト

1日目から引き継ぐ消費時間は先手森内名人が4時間26分、
後手渡辺竜王が3時間8分。この時点で1時間以上の差がある。

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封じ手は▲7三馬。一番自然な手とされた手で
この瞬間、先手は桂香得。かつ飛車取りとなっている。
もちろん、次の△7五歩が厳しいのだが、局面を落ち着かせれば
駒得が生きてくる展開にもなりうる、との主張。

逆に言えば、駒損をしている後手は、攻めきらないと反撃は必至。
△7五歩と突き立てる。▲同銀は△同銀で6四に飛車がいるために
▲同金とは出来ないため、一手一手に追い込まれる。
やむなく▲8八銀と引くが、これが壁形。
玉の入場を妨げる上に、その銀が受けにも効かない形。
後手は駒損だが玉形の差で勝てるとの主張だ。

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後手は馬で飛車を取る。飛車角交換だ。
先手は飛車を手持ちに攻め合いの順を選んだ。

控え室でもこれは意外だったようだ。
先ほど「駒得を主張するなら落ち着いた展開にすべし」と書いたことが一つ。
もう一つは▲6四馬に△同歩で玉頭の歩が手順に伸びてくるためだ。
もう一手歩が伸びれば、十分攻めの拠点となりうる。

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ただ、先手はこの手を狙っていた。
▲2四歩と後手玉頭に突き捨てを入れてから▲5一飛打。
次に▲2三歩の攻めを見せながら、5筋の守備にも利かす攻防の一着。

この手が成立するためには、1日目の▲9六歩が必要だった。
△9五角の王手飛車を消している。そこまで読んでいたのか、
あるいは▲9六歩を活かす手順を選択した結果だったのか、それはわからない。

先手は歩が1枚なのでギリギリの手だが、
無理ではないかと言われていた攻め合いを成立させている。
激戦となった。

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しかし、斬り合いが続くと厳しい展開となるのは
駒損を甘受している後手の側だ。主導権を取りに行く。
角2枚を連打し、8八の銀を狙う。
ここに馬を作られると先手は一気に受けなしになりかねない。
先手は5筋に歩と銀を打ち付けて受けるが
右図、後手は角1枚を切り飛ばしてでも8八の地点を制圧しにゆく。
先手は何とかして8八の地点を受けなければならない。

と、ここで2日目昼食休憩となった。
後手が猛攻を仕掛けているように見えるが、
もともとの駒損の上に角を1枚切り飛ばしたことから
ここまでの駒割は▲飛桂香△金の交換と、後手の駒損がひどい。

先手が攻めを余せば反撃が視野に入る。
後手の攻めがゆるむ、その瞬間を捉えきれるか。

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8八を死守するためには▲9七角か▲7九角。
▲9七角はその先の活用が見えるようで
△8六歩から角をターゲットにされてしまうので、▲7九角を選択。
自陣の、しかも角道が塞がった位置に打たざるを得ないようでは
苦しく見えるが、しかし一度玉が動けば2四の地点を睨んでいる。
角を使える展開になれば、先手は一気に逆襲を狙える。

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後手は角連打から一貫して先手を攻めているが
その攻め筋はか細い。通常の攻めより薄い3枚の攻め駒で先手玉に迫るが
完切れしてしまったらそこで勝負は終わる。

よって、渡辺竜王は踏み込む手順より
必ずつながる順を中心に読んでいったようだ。
しかしその結果、わずかに緩い。
後手は攻めのなかで金を徐々に進出させて間合いを詰めていくのだが、
左図86手目△7五金では△6六歩と叩いたほうが迫力があり、
右図94手目△6六金では△7七金打とカチ込んだほうが方針が定まった。

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竜王の僅かな隙を、名人は見逃さない。
ここで反撃に転じる。急所の▲2五歩。
△同歩は▲同飛が王手角取りの絵に書いたような十字飛車。
手抜いても2四の地点が飛車と7九角の焦点となっていて
固いとされた後手玉が一転して窮地に陥りかねない。

よって、後手はここで決め手級の踏み込んだ一手を求められる。
竜王の選択は△7七金打。金を捨てながら竜を詰ましにいく厳しい順だが
2手前にも候補となっていた手だ。この手の遅れがどう影響するか。

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先手は自陣で竜を守りつつ、玉頭を歩で狙う。
曲線的な攻防を続けながら、それでも最善の手をつなぎチャンスを待つ。
左図▲2四歩と踏み込んで△同銀と浮かせた後、
自陣に手を入れ、右図▲2三歩とさらに攻め込む。

どちらが先に玉に迫っているのか、難解な局面。
森内名人の残り時間は10分を切っていた。

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▲2五歩に△2七歩。2筋で双方が匕首を突きつけ合う。最後の斬り合いだ。
△2七歩▲同飛で△7八金▲2四歩△7九金▲2三歩成△3一玉までは一本道。

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そして問題の局面。先手玉は△6七角からの詰めろ。
しかしここで―

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▲6五桂が起死回生の一着。
この日の封じ手で駒得した桂をここで使う。
これが△6七角からの詰めろ逃れの詰めろになっている。
先手玉が上部に脱出する際にこの桂が陰となってルートが開かれているという。
ここで絶妙手が出て、再び先手が蘇ったと思われた、その刹那。

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ニコ生解説で形勢判断をになっていたponanzaが詰みを示す9999を表示。
それまで「先手が約400点ほど有利」としていただけに、
コメントと解説が混乱し騒然となる中、竜王は間違えない。

一度席を外して気勢を整えた上で、
無筋からの、しかし勝負を決する一撃を着手する。

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着手後まもなく、森内名人もその事実に気づく。
△3一玉の段階で、先手玉には△6七角のほか、
この△6九角の詰めろも刺さっていた。
▲6五桂は△6七角の筋を鮮やかに消していたが、
その鮮やかさゆえに、裏からのもう一つのラインが隠されてしまった。

しかし、ただひとり竜王には見えていた。

▲4九玉△5八銀▲3八玉△4七銀成▲同銀以下、先手玉は詰んでいる。

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投了図。以下、▲5八玉△5七歩▲同玉△4五桂
▲6七玉△6六飛から先手玉は即詰み。


渡辺竜王が3局連続で急戦矢倉を挑み、
駒損を厭わない異端の戦略から細い攻めを繋げて
最後は攻めあいになったものの先手玉を即詰みに討ち取って勝利。
対戦成績を1勝2敗としました。

感想戦の結論から言えば、

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103手目▲2三歩が敗着だったようです。
控え室でも検討され、実際森内名人も読み筋に入れていた
▲2四角と対角に切っていくダイナミックな手であれば先手も有望だったという。
もっともそれですぐ勝ちになるわけではないので
後手が全体的に優位に対局を進めていたとはいえるのでしょう。

この後上記した△2七歩打では既に後手が勝ち筋に入っていて
ponanzaの評価値ゆえに話題となった▲6五桂以外の手で
二つの詰めろを同時に消したところで後手玉に詰みはないため
後手勝ちは動かなかったようです。

ponannzaも直前まで先手有利と読んでいたわけですから
プロ棋士のみならずコンピュータをも欺いた
この順に持ち込んだ渡辺竜王の終盤の強さにこそ注目すべきでしょう。

終わってみれば、序盤に先手の駒得となった桂香は
活用される目処が立たずに終わってしまい、
結果後手が先手に手数を請求しつつさばいたようなかたちとなりました。
(そればかりか、最後には▲6五桂で余計に目立った)
第1局、第2局ではみられなかった、渡辺竜王の強さでした。

ちょうどこの対局を前後して、日本列島には寒波がやってきています。
渡辺竜王は冬、強い。

冬の訪れを竜王が勝利で告げた。
そんな第3局だったのかもしれません。


第26期竜王戦 【第1局/】【第2局/】【第3局/