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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第61期王座戦第2局 羽生善治王座-中村太地六段 泥の中の蓮。

将棋 王座戦

第61期王座戦 【第1局】【第2局】【第3局】【第4局】【第5局】
       【挑戦者決定戦】

泥にまみれろよ。(あいさつ)

9/18、第2局が行われた第61期王座戦
9時開始の対局は、途中大差で終了するのでは、と思われていましたが
結果、王座戦史上最長手数の203手にも及ぶ死闘となり、終局は23時21分。
当夜は興奮と考えすぎによる頭痛で、なかなか寝付けませんでした。

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とか思っていたら、普通に風邪をひいてたらしく、
発熱まであった。道理で不調なわけだぜ、ってことで
間が空いてしまいました。すみません。

中村六段の1勝で迎えた第2局は、羽生王座の先手番。
横歩の最新型決戦かと思われていた本局は、
序盤から意外な展開をみせます。


棋譜中継】(特設サイト

先手羽生王座、後手中村六段。王座戦は持ち時間各5時間。
会場は兵庫県神戸市有馬温泉「中の坊瑞苑」。

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2手目△8四歩、3手目▲6八銀から相矢倉の手順に。
そしてここで△5三銀右と出て急戦矢倉の構え。
控え室は「意外」との声が多数だった。
後手では横歩取りを主戦とする中村六段は、
そもそも2手目△8四歩と突くことが極めて少なく、
公式戦での採用はこれまでわずか2戦しかなく、しかも2敗。

ただ、中村六段は「週刊将棋」紙上に
「後手番の有力戦法 爽快!急戦矢倉」を連載しているとのことで
研究は十分あるのだろう。加えて言えば、ニコ生解説の佐藤康光九段は
中村六段と研究会仲間なのだが、
研究会ではよく後手矢倉を持って指しているそうだ。

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急戦矢倉については、もうひとつ伏線がある。
公式戦ではないが、8/10の第15回京急将棋祭り。同じ会場に羽生、中村両者がいた。
その日のメインである席上対決は羽生三冠に
佐藤天彦七段と中村六段の勝者が対局するという趣向で、
その▲中村-△佐天戦が△5三銀右の急戦矢倉(後手勝ち)。

中村六段は解説者として次ぐ▲佐天-△羽生戦に立ちあったが
そこで羽生三冠が△5三銀右の急戦矢倉を指し、結果羽生三冠が勝ち。
最終形は、入玉を目指す佐天玉を後手が二段目で捕まえたという、
象徴的な形となっていた。

あの時解説者だった中村六段が、
今度は後手番として△5三銀右の急戦矢倉を仕掛ける。
この流れを踏まえれば、これは
「あの時の羽生さんよりも上手く指しますよ」という挑発だろう。

この時、羽生王座の考慮は、序盤にしては多めの23分間。
その時の様子が動画で話題となっているのだが
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これは寝ているというより、
乱数調整感情をコントロールしているのではないかという気がする。

結果、羽生王座はその挑発に乗らず、定跡とは別ルートの▲5七銀右。
5筋歩交換を防ぐ。▲5七銀右自体は、
さほど先手の分がよくないとされているが
逆にこれで後手の仕掛けを咎めているのだろう。
はやくも構想力の勝負となった。

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双方に相手の手を見ながら狙いを消す駒組。
先手は▲5七銀右としたため、角の活用が難しくなった。
定跡形では▲7七銀から▲7九角として角が4六あたりに出て
相手の角を牽制しつつ後手陣を広く狙うのだが、
5七の銀が塞ぐ形となるためそれができない。

よって後手は雁木に組む。主張は先手より角が活用しやすいこと。
角を3三→5一として△8四角と転回するのが狙い。
雁木は1~2筋が弱いが、先手が右銀を中央の守りに使い、
角も出てこない形なら、その弱点を突かれる可能性は低く
むしろ角の出で先攻できるという読みだろう。

これをみて、先手は菊水矢倉を示唆。
現局面から▲7七桂→▲8九玉で完成する。
後手は先の筋(△8四角)から
△7三桂~△6五歩~△6五桂と角と桂の連携攻撃を見せているが
先手は▲7七桂と菊水矢倉に組めば、△6五歩の仕掛けを消すことができる。

ともに相手に狙いの筋を見せ合いながら
それを駒組で消してゆく組手争い。
だが、このあたりにいたり、先手の模様が良さそうとの評価で固まっていく。
後手は雁木から角を使った攻めを見せたかったが
先手の菊水矢倉の順から△8四角を消されると
囲いの差がはっきりと形勢の差になる。
急戦を仕掛けたほうが足踏みを余儀なくされているわけだから
それが必定といったところ。

結果、このあたりから、双方ともに相手に仕掛けさせて
ウンターを狙うという方針になっていくのだが
矢倉を作れた先手が明確にプラスの手を積み重ねられるのに対して
後手は相当の辛抱を強いられる展開となった。

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よって、後手は先手の攻めを誘いたい。
先述したように後手の弱点は1~2筋。
このため、38手目△1四歩と端歩を交換し
40手目△3三桂と桂を跳ね、
端をさらに薄くしてまで先手に仕掛けさせる。

上記図は先手が飛車も回しながら1筋から仕掛け、
出てこれなかったはずの角も出てきて
完全にペースを握っていると思われるところ。
後手は仕掛けさせたとはいえ、辛抱する局面が続く。

しかし、それでもなお先手が本格的に攻め入るには
難しい展開だったようだ。

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夕休直後に羽生王座が穴熊を志向したあたり、
この将棋の難しさを思わせる。
あるいは、双方ともにこのあとの展開を
この時点である程度見据えていたのかもしれない。

ニコ生解説では、戦いが始まれば大差になるのでは?
と言われていたが、あえて開いた1筋の通路と固まる先手玉。
対局者は既に別の絵を描いていた気もする。

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72手目、後手がついに仕掛ける。
1筋を主戦場に、先手が攻め、後手が受ける展開。
この構図は最初から、そして最終盤までずっと変わらなかったのだが、
更に直接的に、苛烈な展開になる。

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攻防戦が始まって、まもなく、
後手が敢然と入玉戦を決意する。

思えば後手は中盤戦でも1筋にわざわざ傷を作り
攻防戦が始まっても1筋の飛車をどかし、馬を作った。
完全に予定の進行だったかはわからないが
有力なルートのひとつだったのだろう。

先手玉は穴熊だとしても完切れなら後手勝ちはもちろんある。
というか穴熊で先手の駒が左辺に偏っている以上、
1筋からの突破戦は必然だったとも言える。

ここから、後手玉の進撃を
先手が全力で阻止にかかるという大激戦が開始する。

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後手の強手、△1九歩成。
康光九段曰く、包囲網を構築しようとする
先手の狙いを「全否定」するような手。
後に2九の桂を払って脱出ルートを切り開く狙いだが
この直後に攻められても振り払える、攻めてこいというようなもの。

後手が受けという展開は変わらない。
変わらないのだが、攻防は逆になっているように感じた。
先程、あえて進撃と書いたが、追撃をすべて切って捨てれば
先手玉の姿焼きが視野に入る現局面では、
後手のチャレンジを先手が受け止めるような、
そんな展開になっている。追い詰めているのはどちらだったのか。

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双方時間僅少。中村六段は1分将棋、羽生王座も5分を切った状況。
控え室、ニコ生で後手が先手の攻めを振りほどいたのではないか、
と言われ始めていた局面。
これ以前も、以後も双方に細かいミスが出ているが、
後手はここで△1五玉と出ていたほうがよかったという。

しかし、少なくともこの段階では
あれだけ厳しい展開となっていた後手に
勝ちの目さえ生まれていたということになる。

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そして、ポイントの局面の一つ。
後手としては決断の一手となる△1四銀。

△1四飛だったら入玉確定なのだが、
その飛車を取られてしまうことになり、大駒を渡す。
先手に相入玉持将棋というカードを渡すことになるため
「この進撃戦でケリをつける」という意思表示の銀合い。

ただ、

佐藤天彦七段によると、
この手には、先手の応手で寄り筋まであったらしく
上手くなかったようだ。
そして、これまでの数手は後手が大きく流れを引き寄せていたが
ここから流れが再び大きく先手に向かった。

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銀合いで手を渡した後手は先手の▲4八銀の攻めを許す。
ここは急転直下、対応を誤ると一気に寄せられてしまうところで
見た目にも慌てた手つきで△2三香打。
しかし、これが「受けになっていない」と佐藤康光九段。
ただで香を先手に渡してしまうことになった。

逆に、ここで単に△3六玉なら後手が余していた可能性があったといい、
ゆえに、先手も寄せを誤っている。
先述したように、双方1分将棋の攻防のなかで
お互いに細かいミスが出ているのだが、
結果からすればこの△2三香が最後に大きく影響した。

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ついに後手玉は先手玉の初期ポジションまで進む。
トライルールならば後手勝ちの場面だ。
しかし、先手は穴熊の一部であった銀を下がって玉を狙う。
このあたりでは、「どうやら後手玉は捕まった」とみられていたようだ。

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羽生王座の手が震えていたとされる香打。
先ほどの場面で渡してしまった香だ。

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先手は後手玉を押し戻してさらに攻めをつなぐ。
後手も必死に防ぎ、もう一度攻め入ろうとするも叶わず。
ここで後手が投了。

王座戦の最長手数を遥かに超える203手で終局となりました。
投了図以下は、佐藤康光九段によると
△2七同銀成は▲6三角が厳しく、
①△4七玉▲5七金△3七玉▲2七角成で詰み。
②△2五玉は入玉ができないので投了もやむなし、とのことです。

終局時間は23時21分。
夕休までねじりあって溜め込んだエネルギーを
一気に放出するかのような終盤となり、
一時は後手の思惑が通るのではないかとの場面まであった、
まさに死闘でした。
これで羽生王座が1勝1敗のタイに追いつきました。

感想戦の様子、対局者コメントなどによると
やはり総じて序盤から先手の模様がよかったものの

仕掛けの糸口を見つけにくい将棋でした。攻めが細かった気がします。入玉模様になって悪くしました。(72手目△1四歩の局面の見解を聞かれて)その直前の▲7八金右は成算があって指したわけではありません。しかし他の手もわかりませんでした
対局後の羽生王座コメント

先手が具体的によくする順がなかなか見いだせず、
結果として本譜の順になったということのようです。

一方、中村六段も急戦矢倉を仕掛けたものの

2手目△8四歩でどうなるかわかりませんでしたが、△5三銀右急戦は狙ってみようと思っていました。しかし、つまらない将棋にしてしまったかもしれません。自分から手がつくれなくなってしまったので。(72手目△1四歩の局面の見解を聞かれて)本譜の順で攻められたら仕方がないと思っていました。その後は、ちょっとわからないですね。いい手があったかもしれませんが、わかりませんでした
同対局後の中村六段コメント

羽生王座の変化に対応するだけの応手はなく、
途中で入玉戦に活路を求めていたようですが、
成算があったわけでもなく、
ただひたすら難解なルートを選ぶことになったようです。

さて。
本譜について、ニコ生や某掲示板では、
対局中から「名局賞」との声が上がっていました。

私には名局かどうかはわかりません。

死闘ではあったが、先手が仕留め損なったがための泥仕合に
みえなくもない。が、だからこそ心打たれた。

厳しい状況にあっても、決して自ら崩れることなく
ともに泥の中の途に勝ちを目指した。

名局じゃなかったかもしれない。
でも泥沼の死闘だったからこそ、際立ったものや
美しさがあった気がします。

それがなんだかはわかりませんが、
ただひとつ、言えることは
次の対局が待ち遠しくてならないということです。


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