二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第61期王座戦挑決 中村太地六段-郷田真隆九段 夏の日の花火に似て。

第61期王座戦 【第1局】【第2局】【第3局】【第4局】【第5局】
       【挑戦者決定戦】

7/22は羽生王座への挑戦権をかけて争われる
第61期王座戦挑戦者決定戦。
今年の勝ち上がりは郷田真隆九段と中村太地六段。

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中村六段は、準決勝で森内名人を下して
昨年に続いての挑決進出。
昨年は羽生二冠(当時)に敗れ、
棋聖戦に続いてのタイトル戦登場はかないませんでした。
今年は昨年の雪辱を期す。

郷田九段は、渡辺竜王を破って4度目の王座挑決。
本年度は好調を維持し、棋聖戦でも挑決まで勝ち上がりましたが
棋王位を奪われた渡辺竜王に敗れており、
ここで再びタイトル戦に名乗りを上げたいところ。

どちらが勝ちあがっても、初の王座挑戦者。

振駒の結果、先手は中村六段。
戦形は角換わり。非常に激しい攻め合いになりました。

【棋譜中継】(特設サイト)

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角換わり相腰掛銀。
角を互いに手持ちにすることから、
角打ちの隙を避けるため、この先は手順は前後しても
完成形はほぼ同じ。その前後でどちらがどういう風に仕掛けるか、
仕掛けさせるかに、角換わりの序盤の駆け引きがある。

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最近頻出している先手から1手パスの1八香。
意味がないように見えて、意味がないことに意味がある。
陣形に隙がないだけに、仕掛けの手は一時的に形を崩す。
相手に仕掛けさせて、後の先をとりますよという手で
先手が大きく勝ち越している。後手に工夫が迫られる局面だ。

話題となったところでは、先の名人戦第3局がこの形となり、
先手の羽生三冠が唯一の勝利を挙げている。
ただ、この二人の絡みでいえば、
3月の棋王戦第4局が思いつくところ。
後手の郷田棋王が渡辺竜王に敗れ、棋王を失冠したのですが
その時のニコ生解説が中村太地六段だった。
中村六段には、もしかしたらその時の印象があったかもしれない。

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後手から7筋突き捨て。新手のようだ。
先図面から△2三金直▲2五歩ときて現局面。
金のバックステップや△9二香などが指されていたところで
ともに手待ちの一着だが、郷田九段は仕掛けてきた。

見るからに後手の飛車周りに角を打ち込むラインが見えるが
「打たせても十分」という考えなのだろう。
先手も激しく応じて、総じて先手が仕掛けて後手がカウンターという
角換わりのパターンというより、
双方が攻め合いの激しい展開に。

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バチバチと音を立てて五段目で駒がぶつかる。
後手が踏み込めば先手も返して、ここで玉頭の継ぎ歩。
先の新手で後手が7筋を突き捨てたために持っていた一歩。
△7五歩を咎めている。後手はこれを手抜いて
△6六歩と取り込み、先手も負けじと▲2四歩と突く。
激しくなってきた。

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後手から角を設置。
桂を逃げても馬を作って飛車取りが残る。
一見、▲2八角で受かっているように見えるが
先ほどの2筋取り込みで、△2七歩が利くようになっており痛い。
先手はどう立ち回るか。

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桂馬を跳ね、▲4四歩と金を下げさせてから
▲2八角でぶつける。今度は遮蔽物(桂)がないため、
後手は△2七歩を打てない。角交換して仕切り直しとなる。
どちらも激しい攻め手を続けながら
双方ぎりぎりでバランスは取れている。
後にこの手順がどう局面に影響するかは
現時点ではまだわからないが、
結果的に角交換で自然と飛車を2筋に戻した先手が
幾分よくなっているように見える。

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先手は再度放たれた後手の角を責めながら
攻撃の形を徐々に整え、
形勢は先手持ちの声が聞かれていた控室の空気が一変した
天王山の△5五角。ただやんに見えて、
とった裏から攻撃を作ることができる。

角を逃げずに攻めを作る。
まさに「郷田流」、一転後手持ちの声も。

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しかし、先手は「とってこい」の角を取らずに
飛車を狙って裏拳の角打ち。
ところが、後手はこの飛車取りも手抜いて△7六歩!

「スーパーあつし君」の異名を持つ宮田敦六段が「うわぁ」と声を上げた。あまりにも駒が当たりすぎている。これだけの局面はめったに見られない。
棋譜コメより)

盤上で大駒を含めて駒同士がこれでもかというほどにぶつかり合い、
激しく火花を散らす。このすさまじい盤面から抜け出すのはどちらか。

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△7二飛と角から逃げながら攻防に利いた飛車から
検討室では後手持ちの声があったようだが、
先手がここから猛攻。中央を銀で敢然と攻めてから▲4四角。
後手はここで銀を合わせたが、この銀打ちで形勢がまた変わる。
検討室では1二玉と逃げる手を有力視していたようだ。
(もっとも、感想戦ではそれでも先手有望とのこと。
 だだし、もう少し難解になったという。)

9段目にいる飛車の横利きのため、先手玉にすぐの詰めろはなく、
一方、先手の攻めはつながりそうだという。
先手の猛攻が、圧力が、強い応手を引き出してきたが
それすらも突破しようとしている。

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角を切って守備駒を払い、
▲3四歩→▲2四歩。後手に反撃の隙を与えない。
一手すけば、銀や角を3八に打ち込んで両取りをかけ
攻防に利いている2九の飛車をどかすこともできるのだが
ここまでまったくそんな手を作るいとまがない。

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飛車を封じていた一方で動きの取れなかった角も活用され
最後まで急所のラインを抑え続けることになる。
後手は△3三銀と馬に当てて距離を取らせる。

ちなみに、

とすると、

こうなり、後手が盛り返してしまうようだ。
そして。

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郷田九段も粘りに粘るのだが、
徐々に指す手がなくなっていく。
中盤までがあまりに激しかっただけに
静かに終わっていくことにさみしさすら憶える。

最後は中村六段が銀不成で必至をかけてここで投了。

「盤上から火が噴き上がっているかのよう」「真夏の将棋」
棋譜コメで称された凄まじい攻め合いは、
中村六段が制しました。


中盤まで、あまりの駒のぶつかり合い、
「とってみろ」「とらねーし」の意地の張り合いに
どちらが指せるのかもわかりませんでしたが
後手の△5五角の勝負手を手抜いて最上段に角を放ったことが
最後に生きたということに思います。
これで一気に寄せ合いの局面に入ったが、
そこで2枚の角による鋭さが後手の攻めより先に疾った。

森内名人戦でも思いましたが、
中村六段は角打ちに独特の感性がある気がします。
飛車をさばいての角連打で打開する。
振り飛車党だからこその攻めなんでしょうか。

また、流れの中で2九に落ち着いた飛車が
攻防に利くことになったところに勝負のあやがあったとも思います。

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とはいえ、やっぱり「無理攻め」と自称する
攻めと踏込みの鋭さが印象に残ります。
角取りを保留してそれ以上の攻め筋を探そうという感性が
すでに異質な感じを受ける。そしてそれが最後には
飛車とあわせて玉を射抜く位置に出てくるというのが凄い。

また、郷田九段も、決してひるまず堂々と応じ、
だからこそ挑戦者決定戦にふさわしい、
素晴らしい棋譜になったのだと思います。

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4度目の挑決だけに突破したい想いはあったでしょうが
最近鬼門となっている後手角換わりを逃げず
新手・勝負手を放ち、勝負を作ったのは
見事としか言いようがないですが、半歩及ばなかった。


中村六段は、今回、
森下九段、佐藤康光九段、森内名人、郷田九段と
並み居る羽生世代(と森下九段)を連破しての勝ち上がり。

タイトル戦で待つのは、その世代のラスボスですが
これまでと同じように強く、激しく踏み込んでほしいと思います。


第61期王座戦 【第1局】【第2局】【第3局】【第4局】【第5局】
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