第26期竜王戦決勝T 谷川浩司九段-豊島将之七段 一分将棋のセカンドウィンド。
竜王戦本戦トーナメントは、順次進んでいますが
大熱戦となった本戦序盤の一戦を紹介します。
7/5に行われた竜王戦右ブロックは関西新旧エース対決。
先手は谷川九段(3組優勝)、後手は豊島七段(2組2位)。
対戦成績は、豊島七段の4-0ですが
谷川九段はここのところ白星が固まっている先手番を引いた以上
永世名人資格者対決に勝ち進みたいところ。
横歩取りの大激戦は、形勢二転三転のデッドヒート。
双方が一分将棋となっても、どちらが勝つかわからない。
そんな、中継観戦者も手に汗握る大熱戦となりました。
本譜は横歩取り。
△8四飛型の相中住まい。
東京で同時進行の竜王戦左ブロック、
及川五段-金井五段戦も横歩取りの進行で、
竜王戦はここまで3局、すべてが横歩となっていました。
△8四飛型は、序盤から激戦となることの多い横歩の中では
まだ落ち着いた展開を志向しているほうなのですが
流れ的に角交換が入るので、いつ激戦になってもおかしくない、
そういう居合で向き合うような空気が付きまとう。
互いに端に手を入れて、ここで豊島七段の新手。
飛車を浮かして△2五飛と先手の飛車にぶつける狙いを見せる。
しかし、本当の狙いは別にあって――
先手に飛車を咎める桂をはねさせ、
すんなり8四に飛車を戻す「一人時間差」。
2手かけて飛車を前後させただけに見えて、
後手には桂が跳ねた9八のスペースに
△9五歩から角を打ち込む順が生じており、
そうなれば後手が大成功となる。
先手はその順を阻止しながら
桂跳ねを生かす展開にしなければならない。
よって、先手から攻めを仕掛ける。
直接的には3四の銀をいじめつつ、▲2三歩成から飛車の突破を狙う。
もっとも、△4五桂で角道をあっさり止められてしまうので
本線は左辺の攻めとなる。一方のサイドからでも攻撃が刺されば
先手が局面を大きくリードできそう。
が、これが切り返しとなる攻防の角打ち。
先手は後手角による左右両側の攻めを同時に防ぐことはできず
押すか引くかの判断を迫られる。
先手は攻めに出るが、後手角は自陣の守りにも効いており、
検討室は、この段階から後手よしに傾いていく。
そして、検討室で後手優勢と一致した垂らしの歩。
これ以降の井上慶太九段と山崎隆之七段の掛け合いが
秀逸すぎるので、棋譜コメを未見の方は是非目を通していただきたく。
同金と応じると△6七角が激痛。
後手からは7七歩成もあるから、
先手の状況はかなり厳しく見える。
ところが先手は、ここで平然と歩を垂らす。
改めて局面を見てみると、後手の駒台に有効な攻め手はなく
事実上と金の遅早しかないのだが、
先手は左右両側に攻め手が残っており、数手で挟撃形が組みあがる。
後手が寄せに手間取るようだと
先手の攻撃が後手陣に押し寄せる。
そのためか、後手はここで△3五金打。
先手飛車の射線をずらし、玉の逃げ道をふさぐ手厚い一着。
しかし、この手は寄せる筋を追及すべき局面ではどうだったか。
逆に攻めるしかない先手はと金のにじり寄りから天王山の▲5五角打。
この角が最後まで盤上ににらみを利かせることになる。
検討では先手が逆転したのではとの声が増えてきた。
実際には、この前の手で後手玉を4一に引いていれば
明確に後手勝ちだったというような、難解な局面が続いていたようですが
攻め手を欠いている後手に比べ
攻めからリズムを作って好手を示した先手に勢いがあった。
が、この寄せに行った角打ちが疑問手。
代えて▲5三桂成から勝ち筋だったという。
ここで再び形勢は不明に。
双方とも時間がなくなり切迫するも、
どちらが有利か否かもわからない状況。
ともに全力で相手玉を追い、自玉を逃げあって
いつしかお互いの玉が接近、
最終盤に来て攻防一体の総力戦に突入していく。
後手が必死に先手玉を追ってこの局面。
双方、とうに一分将棋となっている。
そして、ここがこの局最大の勝負どころだったようだ。
先手は後手の猛攻をしのいだとみて反撃の▲3五桂を打つが、
後手はその時△5一飛ならば先手玉に詰みがあったという。
もちろん、時間があればともにその筋を発見し、
あるいは回避したかもしれない。
しかし、双方一分将棋のなかでは、
その瞬間に殉じなければならない。
その「瞬間」の中で最善を指したのは谷川九段で
豊島七段は及ばなかった、ということだと思います。
この後からは、後手にチャンスはありませんでした。
(ちなみに、スレ等の「詰んでない」説は誤報の模様)
そしてこれが投了図。すさまじい。
棋譜を追えたことに感謝です。
すげーものを見た。ほんともう将棋観戦やめられない・・・。5五角・・・。
— 谷川二森 (@twinforest) 2013, 7月 5
どちらが勝っているかわからない最終盤で
全力で反発し、そして最善を尽くす。
すべてが棋理にそったような、
スマートな将棋ではなかったかもしれませんが、
だからこそ熱くなれるものっていうのがあると思います。
「コンピュータには、わかるめえ」
いいものを見させていただきました。
ちなみに。
「いやー、この終盤はすげーなー、
この棋譜で当分は日常戦記を戦えるぜー。」
とか思っていたら
翌日の終盤もとんでもないことになったのでした。