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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第84期棋聖戦第3局 羽生善治棋聖-渡辺明竜王 「ゼロ距離カウンター」、△2二銀。

将棋 棋聖戦

第84期棋聖戦 【第1局】【第2局】【第3局】【第4局】


昨日の竜王戦に続いて
2日連続で肌が粟立つような棋譜を追えるとは。

いやもうまじで将棋凄すぎる。
仕事中目が離せなかった(仕事しろ)

史上初、三冠同士のタイトル戦
第84期棋聖戦は、第3局。
ストレートでの棋聖防衛が見えていた羽生棋聖
しかし、羽生棋聖の残り時間約30分の局面で、

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まさかのどうしてこうなった返し。

場合によっては、第21期竜王戦第4局△8九竜、
第60期王座戦第4局△6六銀などと並ぶ
伝説の一着となるかもしれない△2二銀を
中継とはいえ、目の当りにできたことは・・・
えー、いや、なんかよくわかんないけど、すっげえ。


棋譜は中継サイトにあります。

本局は正調角換わり。

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渡辺竜王は最近、後手番では横歩狙いで
2手目△3四歩を指していたのですが、
本局では「受けて立つ」と△8四歩が復活。
裏を返せば、先手の手を広くすることで
「最近結果の出ていない横歩はちょっと」
っていうことだったのかもしれません。

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相腰掛銀。
腰掛銀以外に棒銀や早繰り銀もあるところなんですが
一手損で早繰り銀があるくらいで
正調角換わりだと今のところ腰掛銀しか紹介していません
というくらい、まさに現代角換わりの基本形。

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後手から仕掛けの6筋位取り。
仕掛けるといっても、角換わりの場合は
先手が攻め、後手が受けるという基本構図は変わらないので
攻めの催促といった風情。

ただ、後手側の6筋位取りといっても
先のA級郷田-行方戦と異なり、
7筋を突いていないので、先手に▲6四角を打たすなど
直接の攻めを打診しているわけではなく、
最善形での攻防を巡る手の渡し合いになる。

この後、手順は違えど
昨年の棋聖戦第2局(中村太-羽生)の前例をなぞって展開。
この時は羽生棋聖が後手番で6筋を突いている。
先後が飛車を左右にびゅんびゅん振ってベスポジ争い。

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互いに角を打ちつけてから
飛車に金を寄せた渡辺竜王のこの手が新手。
先手の攻めを飛車交換の筋に絞らせる意味がある。
羽生三冠はこれに応じて飛車を切り、
飛車を手持ちに激戦模様に。

ちなみに、定跡形とはいえ、この手が70手目。
まだ午前11時頃だから、どれだけハイペースでここまで進んできたかがわかる。

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先手に先に飛車を切らした狙いの一着がこれ。
3七の桂を取れれば、△6六桂と玉近くの金取り確定で
後手が大きくリードを奪えるばかりか、
決め手になっている可能性が高い。
羽生棋聖はどう応対するか。

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羽生棋聖の選択は攻め合い。馬で銀を取って
後手玉を狙える位置まで持ってきた。
対する渡辺竜王は桂を打ちつけ、金をはがしにかかる。
後手玉周辺の耐久力が先手より高いだけに
後手がよくなったように思えますが。

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先手が馬を切って玉に取らせたスペースに
歩を打ちつける。シンプルなように見えて
これが想像以上に厳しい一手で、
同玉では▲4二飛が王手金取り、放置すれば
次の▲2一歩成が詰めろとなる。

よって、後手はここで竜切りや
△6四香からの△7五角などの攻め合いに
活路を見出すしかないと思われた。
ここで渡辺竜王は本局最大長考(1時間14分)。
しかし、攻めきれないとみて同玉と受ける。

ここで攻められないようでは、と検討室などでは
一気に先手優勢に傾きます。

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よって先手は▲4二飛から攻勢をかける。
後手は、竜をずらしてから6六に歩を垂らして
ささやかな反攻を試みるにとどまり、
もはや形作りかと思われた。
しかし、この歩は後々大きな意味を持つことになる。

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そして受けの手順の中で放たれた△4三角。
これが逆転に向けた大きな一手となった。
ニコ生の先崎八段は、この後の展開を先読みし
「詰まないことなんてあるのか・・・」
と何度も読み直していましたが
羽生棋聖はこの辺りで勝利を確信し、
数手後に「手が震えていた」との棋譜コメが出るに至る。
検討室などでも「先手勝勢、第4局はない」と
みられていました。しかし――

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信じられるか。この銀打で後手玉は寄らない。
あと一手で勝負がつく、
そんな段階で放たれた「ゼロ距離カウンター」。
この手を着手と同時に渡辺竜王は席を立ち、
残された羽生棋聖はしばし手を読んだのち頭をかかえた。
感想戦で羽生棋聖は「見落としでした」と認めましたが
それは検討室などでもそうだったわけだから、
多くのプロ棋士が錯覚するような順だったのでしょう。

逆に、長考の末に受けに回ると決断した竜王は
この順に誘導することに全神経を集中させていた。

実際、107手目▲3二金打のところで
▲4一竜と寄る筋で有望だったそうですが
竜王はもっとも耐久力のある変化を読んでいたため
そこからも難しいらしく、
普通は「金ベタで詰む」と思ったらその先まで考えないところ。

渡辺竜王は、粘ると決めたから、その先まで読んでいた。
詰まないともわかっていたから、すぐに席を立った。

そのシーンに多くが語られていた。
形勢はまだ難解だったようですが、残り時間も相まって
「逆転」との評も適当だったと思います。

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逆襲の香打ち。前述の6六歩と連動して厳しい一打に。
30手前から1九に封じ込まれた形となっていた竜が活用できれば
後手逆転の可能性はますます高くなる。

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攻め立てられているが後手玉は詰まない形。
竜王には先日手コースに入るか、
それとも寄せに行くかを選択する権利があった。
寄せに行くとすれば、長手筋で難解なうえ
失敗すれば駒を渡す形になるため、
負けを覚悟しなければならない。
王座戦第4局がそうであったように
ここはもう一勝負という考えもあったはずだ。

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しかし、渡辺竜王はラスト10分まで考えて寄せを選択。
即詰みの筋を明示して、ここで羽生棋聖が投了。

投了図以下は、先崎八段によると
▲8八香△8九竜▲同玉△7九金▲同玉
△6八金▲8九玉△7八金打▲9九玉△9八香
▲同玉△8九銀▲9九玉△8八角成▲同銀△9八香までで、
寄せに行った△7九金から数えると27手詰だったようです。

千日手の順を自ら打開し、
即詰みに討ち取って後手・渡辺竜王が
鮮やかなブレイクバックを果たしました。

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羽生棋聖棋聖戦における連勝を大逆転で止めるとともに
初めて棋聖戦(番勝負以外を含む)で羽生棋聖から勝利。

「羽生の銀」ならぬ「渡辺の銀」で勝負をひっくり返した、
凄まじい執念の生んだ勝利で、
ただの1勝にとどまらない価値がある。

なにより、「勝った」「タイトルを防衛した」と思った
羽生棋聖を逆転したというのがものすごく大きい。
我々は、どうしても第21期竜王戦の3連敗4連勝を
思い出してしまうからです。

あの第4局も渡辺竜王が後手番で、必敗と思われた段階から
奇跡的に発見した手により打ち歩詰めの順に誘導し
後の4連勝に繋げました。

次は竜王の先手番。
どういう結果になるとしても、がぜん面白い展開となりました。

次の対局は、7/17。水曜日か・・・。
でも、これは見るしかないっすよね。

第84期棋聖戦 【第1局】【第2局】【第3局】【第4局】