第72期A級順位戦1回戦 三浦弘行八段-屋敷伸之九段 「GPS新手」を巡る攻防戦。
A級順位戦開幕局は同世代対決、
三浦八段-屋敷九段。
若くして棋聖位を獲得した2人でもある。
三浦八段は、最近さらに痩せて(やつれて?)ますよね。
勝ち星での九段までカウントダウンなのですが、
本年はなかなか勝利数が伸びず、足踏みが続いています。
対する屋敷九段は、A級は連続3期目ですが
先手連勝中、後手必敗中という安定(?)した成績。
今期は先手番が4局なので、後手番でのブレイクが求められます。
この対局の中心は、なんといっても「GPS新手」。
第2回電王戦第5局では、
三浦八段が対局者として、屋敷九段が解説者として
GPS将棋を相手に、それぞれに傷を背負ったはずですが
二人の当代トップ棋士は、
あえてその将棋と向き合うことを選びました。
本局は相矢倉。
5五の地点を挟んで互いに角が向かい合う「脇システム」。
三浦八段が得意とし、昨期A級順位戦では羽生三冠を撃破した布陣。
一方で、電王戦ではGPS将棋の呼び込みに屈した戦型。
当然、矢倉になればこうなることはお互いにわかっていたはず。
ここで屋敷九段が「GPS戦を参考にした」という新手。
歩切れを解消せず、銀で飛車先をふさいでしまうという一見悪手。
しかし、
48手目△8四銀、これは…後手の形だけみれば、▲三浦-△GPS将棋戦と同じではないか。ここは先手も方針を決める、勝負どころと言えそうだ。三浦は窓の外に目をやり扇子を握りしめながら考えている。(紋蛇) http://t.co/CenrIZECW8 #shogi #meijinsen
— 名人戦棋譜速報 (@meijinsen) June 10, 2013
電王戦では、GPS将棋が放ったこの手が
後に形勢を大きく変えることになりました。
銀を追っても拠点が作れないため、
後手のキズとみて左辺に手を入れても
先手があまり効果を得られない。
上のツイートは、後手着手後まもなく書かれたもので、
実際には先手も後手も、対GPS戦とは結構異なります。
後手は9筋で位を取っていて、しかも3六歩と垂らしている。
先手は角銀が四段目・五段目にあって自由度が少ない一方、
1筋が伸びている。
棋譜コメントによると、千葉六段は
確かに▲三浦-△GPS将棋戦と似ていますが、あの将棋に比べると後手は攻め味があります。変わってはいますが、まだ自然な印象を受けますね。先手が後手の攻めを受けきるのは難しいと思うので、受けつぶしというよりは攻め合いを狙うことになるでしょう
として、「後手が指せる」とみていたようです。
しかし、誰よりもこの局面を研究してきたであろう三浦八段は、
この問いに真正面から回答を提示してゆきます。
8八の銀を追わず、後手の角を丁寧にどかし銀を転回。
あわせて飛車をあらかじめ1筋にかわしながら、端攻めを企図。
攻防が7~9筋に偏っていた電王戦の轍を踏まず、広く戦う。
そして端攻め。先手を取って突き越していた端歩に加え
自然な流れで飛車も角も1三の地点を狙っている。
この後、先手は角を切り飛ばして端攻めを敢行。
後手も角を切って9筋を攻めたいのだが
ここで8八に放った銀が巡り巡って6四に。
角道をふさいでいる。この後、後手も9筋を攻めますが、
結果として先手の攻めが早かった。
先手は飛車を渡すだけでなく手番も渡すが
端攻め要員だった後手角を道連れに。
これで先手玉にしばらくは詰めろがかからず
手番が回ってくるとの読み。
直前の△9八香打で先手に手番。
次の△9九香成が詰めろなので、先手は攻めきる必要がある。
そして、終盤の長手数の攻防こそ、三浦八段の領域。
検討に入っていた弟弟子、
阿部健治郎五段は「寄っていると思います」。
最後は即詰みに討ち取って三浦八段が勝利。
盤面を広く使って端から猛攻を仕掛けた、強い勝ち方でした。
新たな工夫を加え、「GPS新手」をあえてぶつけた屋敷九段、
類似局面になることを厭わず、受けて立った三浦八段。
電王戦第5局にかかわった二人だったからこそ
作ることのできた棋譜なのだろうと思いました。
そして、だからこそ、電王戦で船江五段が語った言葉が思い出されます。
「負けたことを生かせれば、それが人間の強みだと思います。」
その一つの答えが、今回の対局だったような気がしてなりません。