二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第54期王位リーグ最終局(白組)佐藤康光九段-澤田真吾五段 挑戦者の覚悟と本家の意地。

第54期王位戦挑決リーグは最終節。
紅白ともに最終節に天王山、うち白組は
4勝0敗で並ぶ佐藤九段と澤田五段が直接対決で
勝った方が挑戦者決定戦に回るという大一番でした。

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ちなみにモテさん画像は左右反転なので
左で指しませんのこと。

佐藤九段は、王将失冠も次のタイトル挑戦に射程を入れる。
澤田五段は昨年度勝率0.771で2位タイ、
2013年もハイアベレージで勝ちまくっていて、
この王位リーグでは渡辺竜王、丸山九段に勝っています。

本対局では、後手の澤田五段が佐藤九段に
「ダイレクト向かい飛車」で本家桃屋に立ち向かいました。


棋譜再現は中継サイトを参照のこと。

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△澤田五段は角交換後に2筋に飛車を振る「ダイレクト向かい飛車」に。
この構想は、従来「先手よし」とされていた手順を
佐藤康光九段が「後手も指せる」と体系化している過程の戦型。
王位リーグは先後は当初から決定されていることから、
澤田五段は、この作戦を準備してきていたのでしょう。

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▲6五角定跡。4三と8三を同時に受けることはできず、
馬を作られてしまうので「先手よし」とされていました。
藤井流の角交換四間飛車では、飛車の途中下車で
4筋を受けられるので先手に角打ちの隙を与えづらい。
本譜では△7四角を当てて一時的にしのぎます。

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角取りで上がった歩の裏に飛車を戻して
居飛車気配(嘘)。ただ、そのまま組み合えば後手は手損だけが残る。
飛車先を払ったのち、ここからの構想が注目されたのですが。

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佐藤九段は簡単に組ませてくれない。
角で飛車をいじめて手を縛る。後手は△6三に角を打ちつけ
角道を消しにかかるのですが、結果的に▲5六角と引かれて
以降後手後手に回ります(後手だけに)。

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先手が8八に入るも後手玉は居玉のまま。
後手がこの将棋をまとめられたら
兄弟子・山崎七段クラスの指し回しなのですけれども、
玉形だけでも苦戦は明らか。

この後、後手は右銀を展開させて守りに使わざるをえない
厳しい状況が続き、なかなか攻め手が見いだせず。
一方、先手は角を犠牲に飛車を捕獲し、敵陣に迫る。

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名人戦第3局でもあらわれた、
馬の背後の後手玉を狙った下段の香打ちで
入玉の狙いも消す。

澤田五段も根性の粘りをみせるのですが――

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及ばず、これが投了図。
後手は先手玉に迫ることはできず、
佐藤九段が本家の貫録を示して挑戦者決定戦へ駒を進めました。

角交換振り飛車は、序盤が非常にセンシティブで
中盤までに作戦の差がついてしまうことが多いといわれますが
(それゆえゴキゲン中飛車の採用数が必ずしも減らない)
本局でもその序盤の難しさを知り尽くした佐藤九段が
後手に難題を吹っかけつづけ、
結果大きく展開をリードしたように思います。

まあ、もっともあえて「ダイレクト向かい飛車」を
ぶつけようという澤田五段の考えは嫌いじゃありません。
渡辺、丸山らを相手に王位リーグ残留は見事。
今年こそ昨年度惜しくも逃したC1昇級を果たしてほしいです。

紅組は行方八段が勝利し挑決へ。
挑戦者決定戦は5/29(水)。
せっかくだから挑決あたりも、ニコ生でやらないかなあ。

あと、藤井九段のリーグ残留は素直にうれしい。