「ゴキゲン中飛車超急戦」の最前線 都成新手を巡る攻防。
第39期棋王戦は、2/22、第2局が行われました。
あの渡辺棋王がゴキゲン中飛車を公式戦で3連採し、
対する三浦九段が超急戦を打診、渡辺棋王が受けて立つという展開で、
「振ったああああああああ」
「超急戦だあああああああ」
などと一部で歓声が上がったのですが、
なぜ盛り上がっていたのか、その背景について簡単にまとめてみようと思います。
そしてその話題の中心には都成竜馬新人王がいました。
ゴキゲン中飛車超急戦は、後手のゴキゲン中飛車に対し、
7手目▲5八金右から先手が超急戦を挑む対抗形です。
直後に先後とも飛車先を切りあう形になるため、
一気に終盤戦に突入する変化でもあります。
基本手順としては
▲2六歩△3四歩▲7六歩△5四歩▲2五歩△5二飛
▲5八金右△5五歩▲2四歩△同歩▲同飛△5六歩
▲同歩△8八角成▲同銀△3三角▲2一飛成△8八角成
▲5五桂 △6二玉 ▲1一龍△9九馬
で、ここが課題局面。
最近では、超急戦はほとんど公式戦に現れていなかったのですが、
それは、定跡で上図から▲3三角打△4四銀打と進んだ局面が
「ゴキ中よし」と結論づけられていたからでした。
加えて、超速▲3七銀の対ゴキ中勝率が6割台と
安定していることもあり、先手があえて飛び込むメリットがなかった。
ところが、昨年12月の順位戦B2▲稲葉-△戸辺戦で
この流れを変える新手が現れます。
▲3三香。指された戸辺六段は
昼食休憩をはさんで4時間の大長考の末、△2二銀打。
本局は超急戦ながら、長い長い終盤の末に97手で先手が勝ちます。
▲3三香は公式戦では新手でしたが、
戸辺六段が研究していたというように、
村田顕弘五段が昨年7月に出した「アマの知らないマル秘定跡」に
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棋士の間(特に関西)では知られた手だったようです。
「超急戦も指せるのかも」、という空気が出てきたなか、
しかし「まだ慌てる時間じゃない」。
「超急戦が嫌なら、受けなければいいじゃない」と
振り飛車の大エース、久保九段がおっしゃる。
そう、7手目▲5八金右に△5五歩と受けず、
△6二玉と囲いに行くのが、超急戦回避策。
後手は向かい飛車に振り直すなど、また別の将棋になります。
これは今年1/7の王位戦予選、▲豊島-△久保戦。
久保九段は超急戦を回避し、じっくりした展開をめざしました。
しかし――
▲2六角!
これが新手で、後手に駒組をさせるいとまを与えず。
本局は最終的に75手で先手が勝ったのですが
感想戦の27手目コメントに、「以下先手の攻めが炸裂」とあって
そこでもう勝負がついてしまった模様です。
投了図をみても、文字通り圧殺であることがわかる対局。
しかも、棋譜コメによるとこの▲2六角。
公式戦では新手だが、研究会では指されている手だという。豊島はこの手を本局の記録係を務めた都成三段が指したのを知っていた。
ここにまたしても都成の名。
超急戦を受けても回避しても「都成新手」。
業界(?)の衝撃が冷めやらぬ中、さらに衝撃的な棋譜が現れます。
その翌日、今年1/8の順位戦C1▲斎藤-△阪口戦。
やはり▲5八金右。阪口五段は超急戦を回避せず
▲3三香△2二銀打だったのですが、
この遠見の角が手筋ながら鮮やか。
投了図。
なんと47手の短手数で先手が勝つと、業界に激震が走ります。
超急戦は一直線の変化が多いため、手を変える余地がほとんどありません。
これで先手よしの結論が出ると、先手が超急戦を仕掛けて
これを受けると後手必敗ということになりかねない。
しかも、回避策も先手に有力手があるとなると
▲5八金右の時点で後手苦しいということになるかもしれない。
下手すると後手番振り飛車の大黒柱、ゴキゲン中飛車自体が
超急戦の前に壊滅してしまう可能性すらあります。
渡辺棋王が「超急戦を受けた」状況には、そういう伏線がありました。
渡辺棋王は振り飛車党ではありませんが、
この時点でゴキ中の命運を背負っていたといっても過言ではありません。
渡辺棋王が超急戦を受けたことに関する一部の熱狂には
そういった背景があったのだと思われます。
棋王戦第2局。ゴキ中超急戦で、現状先手よしという都成新手▲3三香の前の変化△7二玉が渡辺棋王の研究手で、そこから先手が攻めの構想を作れなかった。過去の変化に光を当てる、最近の棋王のスタイルだが、指されてみると飛車を犠牲に玉を堅くし、小駒で細かくという、なべワールドそのものだった。
— 谷川二森 (@twinforest) 2014, 2月 22
渡辺棋王は後手番でゴキ中を3連採し、1勝2敗。
1局は超急戦撃破、対超速の2局もわかれはまずまずで
3局とも勝負形にまではなっていました。
結果的に、ゴキゲン中飛車に希望が持てる展開だったのではないでしょうか。
いずれにしても、渡辺棋王の参戦でがぜん勢いづいたゴキゲン中飛車研究。
特に超急戦ではその最前線はまだまだ分からない点が多く、
さらなる研究の進展が待たれるところです。