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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第72期A級順位戦2回戦 行方尚史八段-深浦康市九段 幻想の刃、因果をも断つ。

【第72期A級順位戦 まとめ】

行方八段に倣ってゲロルシュタイナーとか飲んでみるようになった。

「いや、炭酸水とか、はまってんすよね。」

うん、いいかもしんない。言わないけどさ。

A級順位戦は、ラス前と一番長い日以外は分散開催。
その2回戦の開幕局(7/19)は、ともに白星スタートとなった
行方八段と深浦九段の一戦。

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前期、ついにA級初残留を果たした深浦九段は、
1回戦で渡辺竜王を撃破。
今回もその時と同じ横歩取りで連勝を狙います。

行方八段は、昨年度からの好調を維持。
ちょうど当ブログが将棋ばっかり扱うようになってから
タイトル戦に初挑戦を決めたこともあって、
私方で対局を取り扱うことが多く、検索ヒットが凄い。
加えて、A級1回戦で郷田九段を破った対局がそうであるように
扱った勝利譜はすべて即詰みに討ち取っている。
今回はどうだったでしょうか。


本譜は横歩取り

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△8四飛、5二玉形。後手は後に中原囲いとする。
将棋世界8月号「突き抜ける!現代将棋」によると、
現在進行形で進化が続いている横歩取りのなかでは
もっとも指されている形となるのか。(青野流を除く)

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後手の打診に先手は両端歩を受ける。
先日の棋聖戦第4局では、
後手の羽生棋聖が両端を突き越し、△8四飛が四段目で立体機動、
竜王の進撃を食い止めている。
本譜もまさかそういう形になるとは思えないが、
角の可動域を増すためにも受けたほうが無難。

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後手から角交換、双方桂を跳ね、後手から角打ち。
1筋の端攻めを見せるとともに、先手が突き越している
7筋からの攻めを緩和させようという狙いか。
本局は(主に長考派の行方八段が)一手一手読みを入れていくため
駒がぶつかっていない現局面ですでに時間は20時を回っている。

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先手は7筋で、後手は3筋で、
それぞれ仕掛けを打ってから先手の角打ち。
現局面をみると、中段の四~六段は先後同系。
三・七段目まで入れると、
後手は2筋の銀、9筋の桂がスタンバイしている分
後手のが先に攻めが形になりそうだ。
ただし、後手は2三の銀出がこの角にあたっているため、
先手飛車がにらみを利かす2筋のケアは必要となり依然形勢は難解。
ただ、後手の方がいくらか指しやすそうだという。

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ついに開戦。なんと行方八段はいきなり飛車を切る。
(△同角とさせて飛車角交換)
後手から攻めさせて、攻め合うかカウンターか、を探る。

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後手は△8九飛と打ち込んでから
眠っていた8四の飛車を活用し、先手陣を崩しにかかる。
この後、飛車で先手の攻防の要である5六の角と刺し違え、
右銀を中央に繰り出して先手玉に迫る。

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銀を上がって狙いの桂打ち。
先手も7筋から後手玉に迫っているが、
後手の攻撃がつながってみえる。
控室でも後手が有利との見方。
この手も先手が飛車を抑えていた角を切り飛ばして
受ける形になり、一見苦しい。

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後手が先手玉の寄せに入ろうとする場面で、
しかし、粘りの終盤が信条の行方八段らしい一手。
玉の逃走ルートを作るのと同時に、後手玉の逃走を助ける
攻防の△4五桂を指しづらくさせている。
手番が回ってくれば、先手は7筋に切り返すだけの素材は作っている。
さあ、後手に寄せのルートは見つかっているか。

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△6七銀不成を同金で取り込む。
後手はここで寄せきれないと厳しいが、深浦九段はここで長考。
持ち時間をほとんどつぎ込み、検討室でも
「これは変調ではないか」との声が聞かれる。

ポイントは、△6七同角成▲同玉△7九飛成とすれば
詰めろをかけることができるのだが、
その瞬間に後手玉が詰まされてしまわないかの一点だ。

長考した深浦九段は、「後手玉が詰む」とみて
先手玉に詰めろをかける順ではなく、王手をかけ続けて
自玉が安全になる可能性のあるルートを選択。

後述しますが、ここで両者に大きな錯覚があり、
結果としてそれが勝負を分けることになる。

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竜と馬による迫力のある開き王手。
しかし、行方八段は先手玉に詰みがないことを読み切っているようで
時間僅少なれど冷静に対応。
ここをしのげば先手は大きく勝利に近づく。
そして、そういう終盤の詰むや詰まざるやの見切りは、
行方八段が絶対的に自信を持っている領域。

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後手の攻撃をしのぎ切って、反撃の角打ち。
そして――

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これが投了図。
以下4二に銀または桂、どちらを合駒しても詰む。

というわけで、またもや終盤の粘りから一気に即詰みに討ち取って
行方八段がA級で連勝。
前回A級に挑戦した際は1勝どまりでしたから
本当に強いとしかいいようがありません。

序盤・中盤でガシガシ時間を使うのですが、
終盤は残り4分となってからほとんど時間を使わず
焦点となった78手目から投了まで、
もう読み切ってますというばかりに早差しを続け、即詰みに。
終盤の一閃は半端じゃありません。

私も対局を見ながら

みたいなことを書きましたが、
完全に「世界」ができている。そんな印象です。

将棋世界8月号に、行方八段のインタビューがあるのですが、
そのなかで

僕の将棋は、終盤の詰むや詰まざるやの見切りは
誰にもひけをとらない自負がある。
最近わかってきたのは、序中盤をちゃんと指せば、
そんな自分の良さが出せる将棋になるということです

と書いており、その確信に沿って戦い、
そして勝っているなと感じます。

そして、それが対戦相手に与える影響も
無視できない状態になっているのでしょう。
先ほど挙げた77手目の場面。

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ここが最大のポイントだったようで。

というわけで、棋譜コメント(局後の感想)が大作ですので、紹介しますと

 △6七同角成▲同玉△7九飛成はどうだったのか。
 結論から書けば、
① 行方は後手玉が簡単に詰むと勘違いし、
② 厳密には後手が負けだが、深浦が負けと読んだ順は深浦の勝ちだった。


 行方は▲5四桂△同歩▲3一銀△同金▲5一角△3二玉▲3三角成△同玉▲3一竜から詰みと読んでいたが、△4四玉で詰まない。
「本当ですか?ひどい・・・・・・ちょっと待ってください」と行方。鬼の形相で盤をにらみつけたが、詰み筋は発見されなかった。


 次に並べられたのが深浦の読み筋、▲5一角△3一玉▲3三角成△6一金打の順。深浦は▲6二と△3三金(馬をはずす)▲6一竜で詰みと読んでいたが、△4一銀と合駒をすれば詰まない。

 深浦はあきれ返ったが、話はそれで終わらなかった。
 観戦記者後藤元気さんが▲6二とにかえて▲6一同とを指摘。以下△3三金には、▲4二銀△同玉▲6二竜△4二銀▲2二金△同玉▲4二竜△3二金打▲3一銀から詰ます手がある。先手の持ち駒には桂2枚・銀と金が1枚ずつあるので、後手玉は受けが利かないのだ。

 このことを聞いた深浦と行方は茫然。視線は宙をさまよい、深浦に至っては膝を抱えてうつむいていた。数分後カメラの音で我に返った深浦が居住まいをただし、「これで大丈夫ですか」と観戦記者に声をかけて感想戦はお開きに。終了時刻は2時02分だった。

要するに、あの局面で行方八段は「勝った」と思い
深浦九段は「負けた」と思ったから本譜のルートに入ったが、
実際には、深浦九段が一か八か寄せに出ていれば、
後手玉は(少なくともその時の読みでは)詰まなかったため、
深浦勝ちになっていた可能性が高いということでした。
(実際にちゃんと読みを入れれば、ごとげんさんの指摘の筋で詰むから
 先手勝ちにはなるわけですが、あの時間切迫の中ではおそらく無理だったでしょう)

ただ、その話を聞いて思ったことは、
要するに深浦九段が長考して読む中で、
「行方八段が後手玉に詰みがあるとみて指した」
と“信頼”していたということなんじゃないか、と。

行方八段が、ここのところの勝ち将棋のほとんどで
相手玉を即詰みに討ち取ってきたからこそ、
深浦九段も錯覚したのではなかったか。

その詰み筋は幻想だったが、
それでも現実の勝敗の分かれを叩き切っていた。

本物の強さだと思います。




ところで。

いや、なんか私、本当に深浦さんが
体育座りをしていたんじゃないかと思ってきたんですが・・・。