第2回電王戦第1局 阿部光瑠四段−習甦 大一番で際立った阿部四段の大局観。
と、しょっぱなネタバレをしておいて。
ついにはじまった「第2回将棋電王戦」、
第1局は阿部光瑠四段−習甦。
どういう展開になるのか、始まってみるまで分からなかったのですが
阿部四段がCPUを超える大物ぶりというか、異端ぶりを示しつつ、
その上そのすべてがほぼ「計画通り」と判明し、
盤上・盤外ともに圧勝。プロ棋士の底力を示しました。
注目の戦型。
横歩気味に始まったと思ったら、
なんと先手側から一手損角換わりを仕掛ける
「0手損角換わり」「先手一手損」とかいう
先手なのに一手得をかなぐり捨てる
「いまいちメリット不明」(阿久津七段)な角換わり系に。
対CPU戦の序盤の秘策かと思いきや、
「不思議流」阿部四段は結構指しているそうで
三浦八段にも同型の前例から勝っているとのこと。
ここから双方、腰掛銀系を目指すのですが
本来中央を厚く構えていくはずの手順のなかで
阿部四段は9筋の位を取りに行く。
これを習甦は咎めず、労せずして9五に位を取ることに成功。
大盤解説の阿久津七段や検討室などでは、
この位の高さは中終盤に生きるとして
「先手不満なし」と見ますが
しかし、差し手ごとに計測されるボンクラーズの評価関数は
終始“後手のほうが若干指せる”という数値を示す。
実際、先手は手損しているうえに9筋に遊び、
入城が遅れているわけで、着々と盤面を整える習甦の手が早いと
みることもできます。
ただ、阿部四段の、というかプロ棋士の大局観というか
形勢判断では、概ね
「これでも十分させる、むしろ後々有利」
ということで一致していました。
そういう部分で棋士とCPUの形勢把握の違いというのが
出ていたのかもしれません。
そんななか、34手目△6五桂。
午前中、じっくり駒組みに費やしていたのがウソのような、
午後しょっぱなの先制攻撃。
後手番だが先行して入城した習甦がつっかけ気味に仕掛けます。
この攻めが続けば確かに驚異的。
あっという間に勝負がついてしまうところですが、
しかし、阿部四段は慎重にこの攻撃を受け流し、寸断。
広く開いた敵陣右辺に飛車を投げ入れて逆襲すると
あとは駒を渡さず丁寧に習甦の囲いをはがす作業に没頭。
形勢が大きく阿部四段に振れて以降、数十手局面は続きましたが
その間にも習甦に全く反撃のチャンスを与えず、まさに圧殺。
NHKニュースでも放送された注目度の高い第1局に
怖気づくことなく堂々と指した阿部光瑠四段の強さが際立ちました。
対局後のインタビュー。
村)第2回電王戦、対局後に記者会見が開かれました。阿部四段「率直にうれしいです。盤の前に座ったら楽しくさせた。いつも通りに自然体で指せたらいいなと思って臨んだ」。事前にそう考えていて、なかなかその通りにはできないと思います。(続く)
— 朝日新聞将棋取材班さん (@asahi_shogi) 2013年3月23日
村)<承前>得意の角換わりに持ち込んだ阿部光瑠四段。ある展開になると相手の「習甦」が無理気味に仕掛けてくることを事前に知っていたそうで、本番でも想定通りの展開になったようです。「(86手目の)△3四同銀を見て勝ちになったと思った」。プロの作戦勝ちとも言える一局でした(続く)
— 朝日新聞将棋取材班さん (@asahi_shogi) 2013年3月23日
村)第2回電王戦に関して、再び阿部光瑠四段について。「習甦」と戦うにあたって、本番と同じ持ち時間4時間の将棋を20局以上指したとのこと。1分将棋になると逆転負けすることもあったため、今日は時間の使い方も意識していたようです。阿部四段の1手あたりの考慮時間は最大で21分でした。
— 朝日新聞将棋取材班さん (@asahi_shogi) 2013年3月23日
補足すると、
- 角換わりは狙っていたが、あえて一手損を指したわけではなく想定外
- 横歩は指せない(!)ので、無理に角換わりに持っていこうとしたらああいう形になった
- 9筋を伸ばすのは計画どおり、事前研究でソフトに入玉のリスクは評価できないとの感触を得ていたので習甦は咎めにこないと思った
- △6五桂と跳ねてくるとも思った。研究で同じ指しまわしをみていたから
- 習甦は攻撃をつなぐのがうまい、その反面つなごうと思って無理攻めを仕掛けてくる傾向にあるので、うまく誘導すれば勝てると思った
- 1分将棋になると逆転されるケースがしばしば、終盤まで1時間は残そうと思って指した
ということ。
まとめるとすると、阿部四段は研究の結果、
手損や位の高さなど、評価がしづらい部分で
習甦に優勢と思いこませ、無理攻めを誘発。
攻めを受けきって以降は、相手に駒を渡さず
リードを着々と広げ
最後は時間を残して逆転の目を摘む、という基本戦術で
それをほぼ完全に達成した、と。
終わってみれば手合い違いに等しい棋譜になりましたが
力戦になりやすい戦い方で、そういうフィールドではCPUに
分がありそうなものですし、GPS将棋イベントがそうであったように
いつ逆転されてもおかしくない。
人間側が勝つのは序盤からリードを広げる中押し勝ち以外にないわけで
終盤まできりきりした展開に持ち込む時点で厳しくなるから
そういう戦いにしなかったことが凄いと考えるべきで
決して簡単なことではなかったと思います。
そうして、CPUがどうしても苦手だという
大局観の差を盤面に反映させた、見事な勝利でした。
阿部四段は、昼食でも
「うな重(松)+鮪づくし」
という、伝説級の定跡を披露。
おやつにもケーキ2個を注文してましたし
盤外でも圧倒的な存在感。
(おすしは半分程度、代打ち?の奨励会三浦初段にあげたそうで
場合によるとケーキも1つは取ってあげていたかもしんない)
事前にソフトを提供してもらっていたという
優位性もあったかもしれませんが、それを差し置いても
「手数の読み込み」だけではないプロ棋士の凄みを見せつけた、
そんな第1局になったと思います。
村)一方、プログラム「習甦」を開発した竹内章さん。祖父の遺品の紋付きはかまで本番に臨みました。「いい棋譜を残せなくて残念だが、記憶に残るイベントに参加できてうれしく思う」。プログラム名に「羽生」の字がありますが、これは「羽生三冠に勝つ」という願いが込められているそうです。
— 朝日新聞将棋取材班さん (@asahi_shogi) 2013年3月23日
習甦プログラマーの竹内さんも素敵な人だったなー。
和装が似合ってらした。
で、来週にはもう、第2局。
そして、ニコ生でも紹介されていたけれどPVができてた。
棋士、プログラマ双方にドラマがある。
大盤解説や検討室なども含めて、
ニコ生はすごく面白かったです。
来週は月末ですが、なんとか見たいと思います。
【棋譜】
対局日:2013/03/23
棋戦:第2回電王戦 第1局
戦型:角換わり
持ち時間:各4時間
場所:東京将棋会館
先手:阿部光瑠四段
後手:習甦▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲7八金 △8五歩
▲2二角成 △同 銀 ▲8八銀 △7二銀 ▲3八銀 △3二金
▲7七銀 △6四歩 ▲9六歩 △6三銀 ▲9五歩 △4二玉
▲4六歩 △7四歩 ▲6八玉 △7三桂 ▲4七銀 △3三銀
▲5八金 △3一玉 ▲5六銀 △5四銀 ▲7九玉 △2二玉
▲3六歩 △5二金 ▲3七桂 △6五桂 ▲6八銀 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩 △7六飛 ▲6六歩 △同 飛
▲6七銀上 △4四角 ▲8八角 △5六飛 ▲同 歩 △8八角成
▲同 玉 △4四角 ▲9八玉 △6九銀 ▲6八金右 △7八銀成
▲同 金 △5七桂成 ▲7六銀 △7五歩 ▲8五銀 △6七金
▲8八金 △4二金右 ▲7一飛 △5六成桂 ▲9一飛成 △8四歩
▲同 銀 △7六歩 ▲7八歩 △6六角 ▲5一角 △4一金
▲6二角成 △4二金上 ▲5一馬 △3九角成 ▲1八飛 △6六馬
▲8二龍 △8六歩 ▲3五歩 △8七歩成 ▲同 金 △1二玉
▲3四歩 △同 銀 ▲4二馬 △同 金 ▲同 龍 △2二角
▲3一銀 △3二歩 ▲3三歩 △同 馬 ▲同 龍 △同 桂
▲4二角 △2一飛 ▲2二銀成 △同 飛 ▲3一角打 △2一銀
▲3六香 △8六歩 ▲同 金 △8五歩 ▲同 金 △7七歩成
▲同 歩 △8六歩 ▲3四香 △8七歩成 ▲同 玉
まで113手で先手の勝ち