第2回電王戦第2局 ponanza−佐藤慎一四段 ponanza、天衣無縫の指し回しで激戦を制す。
3/30に電王戦第2局があったわけですが。
報道などでも発表されているとおり、
ponanzaが佐藤慎一四段を破り、
将棋ソフトが史上初めて、
公式の場で現役のプロ棋士に勝利しました。
それはそれとして、私もどうやって記事にしようか
いろいろ考えたあげく、
わたしんちはいつもどおりとしようと思いました。
いわく、「勝者を讃え、敗者にリスペクトを。」
ponanzaが佐藤四段の厚みのある指し回しを突破して
相居飛車の激戦を見事に制しました。
序盤、先手ponanzaは3手目▲5六歩で
振り飛車かと思われたところ、角道を止めて
振り飛車含みながら居飛車で組む手順となり
力戦系の相居飛車模様。
ただ、手順の中で後手の飛車先を払う角交換となったため
「飛車先交換三つの得」という格言にならい
検討室等では「序盤から後手が作戦勝ちの流れ」との評でした。
一方、ボンクラーズの評価値では
飛車先交換を重視せず先手持ち、
第1局と同じく人間との評価の差異が生じます。
こういった「感覚の利」をどんどん咎めに行ったのが
第1局でしたが、佐藤四段は棋風どおり
じっくりとした指し回しで矢倉に構えます。
一方、ponanzaはというと
40手目の局面、7七玉が目を引きますが
この後8八に収まり、左美濃に。
角交換のあたりから玉を7七の地点から動かさないなど
ちょっと人では怖くて指せない手順ですが
「即座に脅威はない」と見切って囲うより
駒組みを優先させた結果、
序盤に生じた差をどんどん埋めてゆきます。
というか、ponanza自身はこういう形で組めるなら
さほど不利ではないと考えていたのかもしれません。
そんななか、中盤の流れが大きく変わったのが
43手目▲4六角打。
直前に角を持ち合う中では緩手となる△7四歩を受けて
飛車と玉頭付近を狙う角打ちで、検討室の空気が一変。
棋譜コメによると
「(後手が)いやだね」「いやですね」「にわかにいやな形になった」の声。▲3七桂まで進んだ局面は、先手がのびのびした好形を得ている。形勢は互角だが、午前中に漂っていた「大作戦負け」という雰囲気はない。「これはソフト(コンピュータ)が力を出せる展開になりましたね」と船江恒平五段。
角を玉頭にぶつけて攻めをつなぐ展開になると
コンピュータは無類の強さを発揮する、という感触に嫌な空気が漂う。
しかし、佐藤四段はここでもあわてない。
ponanzaの中央からの厚みのある攻めを
58手目△6二銀と切って、60手目7三桂と切ってカウンター。
これをみてponanzaが▲8七金と金冠に過剰防衛。
さらに△6五桂と天使の跳躍、
中央での主導権を奪い返します。
このあたりでの手順では、後手が若干持てる感じとなり
ボンクラーズの評価値も後手プラスに転じます。
このあたりで私はリアルに
「よし、風呂いってくる」だったんですが・・・。
お風呂から出てきたら
この△8二飛が▲7四角成を主張させてしまう疑問手、
▲7四角成の局面を前に、検討陣からは「これは大変じゃない?」「大変で済めばいいけど」の声。
と、一気に形勢が先手に傾きました。
結果的にここから先は、後手が流れをつかむことができず
寄せ筋を切れないまま、投了となりました。
最終盤では、後手が馬を使って先手玉を牽制しつつ、
入玉を目指すというルートも指摘されていましたが、
そこまでの構想を実現させる時間はなかったのでしょう。
最後は、矢折れ力尽くという感じで、
後手は時間を使い切っての終局。
ponanzaが二転三転した力勝負を制しました。
棋士側に立ってみれば、
やはり序盤のリードを生かせなかった、
ということになるのでしょうか。
飛車先交換後の駒組みでは、棋風もあるのでしょうが
じっくりと構えてリードを保とうという方針となり、
しかし将棋が定跡形ではなく力戦形だったため、
一手一手時間がかかる。
結果として、それが中盤での盛り返しにつながった反面
最終盤でのミスを取り返す時間がなかったということのように思います。
それはそのまま、コンピュータの強い部分を生かす展開。
和装の佐藤四段は、気合も感じられ、
しかも中盤の厚く熱い指し回しは、信念と矜持のこもった
感動的なまでの手順でした。
慰めでもなんでもなく、「プロすげえ」と思いました。
しかし、最後はコンピュータの生きる展開にしてしまった、されてしまった。
一時、勝ちが見えていただけになおさら厳しい結果でした。
もっとも、改めて棋譜を並べ直すに、
ponanzaの「強さ」を評価しないわけにはいかないと思います。
勝又六段によると、ponanzaは序盤について
定跡検索を切ったうえで3手目▲5六歩を指定、
それ以外はponanzaに考えさせたというお話。
結果として飛車先交換となり、山本さん自身も昼休中に
しかしponanza酷い序盤だ…
— 山本 一成さん (@issei_y) 2013年3月30日
とおっしゃっていましたが、
結果からすれば、人間が思っていたリードはさほどでもなく
中盤にかけて佐藤四段に時間を使わせたという意味でも
構想が見事だったと思います。
「飛車先を払われても指せる」という点で大局観といっていい。
もちろん、構想とか大局観とかを
コンピュータは持ちませんが、結果として。
それは、例えば第1局でコンピュータが形勢判断を
誤っていたというのと対比しているようで面白いです。
一方で、遠山さんも書いていましたが
コンピュータが得意とされる中終盤で
佐藤四段がはっきりと優位に立つ場面もあって
そのあたりもとても興味深い。
@aq3948 キャラぶれなすぎワロタw しかし今回の将棋を見るとコンピュータが名人を超えたというは・・ないわ という感じですね。持ち時間が長くなると人間はすごい強くなるイメージですね。
— 山本 一成さん (@issei_y) 2013年3月31日
人がしのげる部分というのは、まだきわめて大きいと感じました。
そして、それが何なのかという部分を見つめることこそ
この先につながることなのかもしれない、とも。
電王戦の長い長い感想戦を終えて帰宅中。今回のことが世間にどうとらえられるかは、今の将棋界を写す鏡だと思います。今日の将棋をみて、コンピューターが大きく発展するということは、人間の本質を表に出すことなんだと感じました。
— 遠山雄亮さん (@funnytoyama) 2013年3月30日
船江五段いわく、「コンピュータは自分を写す鏡」。
その姿をどうとらえるかも自分次第。
ともかく、パンドラの箱は開かれ、災厄も降り注がれました。
けれど、そこにまだ希望はあるらしい。
私は、最後まで見届けたいと思っています。
その結果がどうなろうとも。
【蛇足】
そういえば、
山本さんは「強いよね」フラグもへし折りました。
公式「アーヤッチャッタヨー」とか
ネタ方面でも相当面白い昨日のニコ生だったのですが
えりりんさんの涙の後では、
なかなか触れられない話題になってしまいました。
あれで山本さん負けてたら、
「元祖サトシン」佐藤紳哉さんが
さらに輝いていたんだけどなー。