二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第63期王将戦一次予選 藤井猛九段-上村亘四段 「藤井の矢倉」ktkr。

明日はオーストラリア戦と棋聖戦第1局。
あああ、どうすりゃいいですかねー。

と、そんなこととは全く関係なく、藤井九段のお話。

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今回はシステムじゃないですけどね。
キャプ元はこちらの動画です。
棋譜は「ひとつ、ひとつだ!」「ふたつ」のあれ

名人戦第五局・2日目で森内名人が正調矢倉戦で
羽生三冠を圧倒していたその裏で、
藤井九段も相矢倉戦をしていまして(しかも早囲いではない形で)、
とても面白かったので、その対局を紹介したく思います。


本局は王将戦一次予選。
勝った方が予選決勝で中村太地六段と
本戦出場をかけて対戦。

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3手目に銀が上がって矢倉っぽい出だし。
昨年12月(NHK杯森内名人戦)以来の藤井矢倉となるか。
(と、もう上でネタバレしていますが、なりません)

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先手は早囲いを狙う。
ここから飛車先を伸ばしつつ、
▲7七銀、▲7一角、▲6八玉→7八玉まで進むと
いわゆる「藤井矢倉」の形ができる。

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後手は次に△7五歩を見せて早囲いを牽制。
手順は違いますが先のNHK杯戦では、
後手の森内名人が実際に△7五歩でつっかけ、最終的に後手勝ち。
もっとも中盤までは先手作戦勝ちでしたが、
今回は先手は▲7八金と早囲いをあきらめます。

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組み上がった状況。角の出と4筋の突き越し以外は同じ。
ということは後手の手得が大きいように見えますが
先手には▲4六歩から角を引かせて攻める手が見えていて
主導権を握れそうな印象。

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・・・ではなく、飛車を4筋に回し、角を牽制。
なんとなく振り飛車感覚っぽいですか。しらんけど。

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ここで仕掛ける。緩急が利いている。
狙いは矢倉本体というより駒が衝突する3五の地点に
角を進出させること。7一に馬を作ることができる。

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△3四同金、▲3五銀、△4七歩打、▲3八飛、
△3五金、▲同角、△3四歩打、▲7一角成と進んで上図。
リズムよく攻め駒をさばいて矢倉を消耗させ、馬を作る。
飛車角のラインを3筋に重ねて、あっという間に角が駆け抜けた。

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後手に手番が戻って、飛車を1八にどかす。
先手の攻撃を緩和させるとともに、後の挟撃形へとつなげたい。
ただし、飛車の横利きは残るため、
今敵陣にある駒の、横からの攻めは難しい。

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攻め合いとなってこの▲5二銀。
飛車をどかして次の▲4三歩成が後手には激痛。
互いにガジガジと削りあいますが・・・。

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馬のひもが付いた桂打ちで角道を止めて上村四段が投了。
先手玉の周りは寒々しいですが、飛車の横利きが大きく
追っても退路を阻めない。

というわけで、藤井九段の中盤センスは相矢倉戦でも発揮。
早囲いを見せて相手の攻め方をある程度縛ってから
飛車の射線を見せつつ角でダイナミックに切り込む様は
「やだ・・・かっこいい・・・」
というため息の出るような流れ。

もしかしたら今季名人戦第4局で、
森内名人が藤井矢倉っぽい形から完勝したことで、
採用してみる気になったのかもしれませんが、
最終的に藤井矢倉を断念しても、
それを見せることで盤面をコントロールするという序盤術は
やっぱり独特のものがありますね。

基本的に先手番でしか採用できないですが、
そして本格的な矢倉遣い(ヤグラー)たちに通用するかは別問題ですが、
角交換四間飛車と踏んで対抗形を組むことを構想している相手に
この手順を持っていることは予想以上に大きいかもしれません。

名人戦第5局で宮田新手以降の
先手矢倉定跡の見直しが進みそうなこともあって
飛車先を決めるような力戦系の矢倉戦が増えてくることも予想され、
藤井矢倉流行れ!って感じです。
実際、定跡形とは違った魅力がありますしー。