第62回NHK杯決勝 渡辺竜王−羽生三冠戦。
解説の藤井九段に「不滅の記録」と言わしめた
NHK杯4連覇・24連勝中の羽生三冠は
5連覇・25連勝を狙う決勝戦。
対する渡辺竜王王将は、というか
収録当時は王将位を獲得していなかったはずですが、
今年に入って朝日杯優勝、王将奪取、棋王にも王手と
破竹の勢いで、世界のはんぶんを支配する勢い。
NHK杯では初優勝を狙いました。
対局では、早指しで羽生三冠が時折見せる
変則的な後手戦術を、渡辺竜王が冷静に対処して圧殺。
内容も圧巻で、本格化している竜王の凄みを見せつけました。
一応、戦型としては矢倉含みという感じなのでしょうか。
後手番となった羽生三冠は、横歩も振り飛車の構えも見せながら
変則手順の矢倉路線。
対して渡辺竜王は、対抗形への変化を残しつつも
冷静に可能性を絞っていき着実に陣形整備、
陽動にもぶれません。
結果として、探り合いの序盤が長く続くも
駒がぶつかり合う段になって、先後の陣形差は
極めて大きくなっていました。
渡辺竜王の玉が入城しているのに対し、
羽生三冠の王は囲えていません。
というか2筋が完全に開いているので
囲うにしてもリフォームに時間を割かれてしまう状況。
それでも解説の藤井九段は
自身が居玉系から攻めを構築する
藤井システムの開祖ということもあってか
先手の攻めが切れれば後手も面白い、という形勢判断でした。
しかし、もともと細い攻めをつなげることに
大きな特徴を持つ竜王の攻撃は連鎖するのでした。
事実上大勢が決した竜王の97手目、5六角。
盤中央に飛角を並べて文字通り縦横無尽。
金銀を従えてドラゴンライダーというか、
「俺がドラゴンナイト(竜・将)だ」
とでもいうかのようなすごい盤面となり、
藤井九段も「竜王勝勢」を力強く断言。
最後は羽生三冠の攻防が全く形にならず
手を残して投了となりました。
終わってみれば、羽生三冠の自滅という印象の棋譜となりましたが
ただ、とりわけ早指し後手番の羽生三冠は
オールラウンダーというよりフリースタイルという棋風ですし
流行系と見せかけて30年前の将棋を平気で指したりもするけど
にも関わらずめちゃくちゃ強いというお方。
実際、曲線的な攻防に格調高く応じた結果
気が付けば鬼手をくらって逆転をゆるしていたという
今大会準決勝のようなこともあるわけで、
この一局については単純に、幻惑されなかった渡辺竜王の力が
羽生三冠を上回っていたということのように思います。
(特に、渡辺竜王はA級で幻惑されていた)
渡辺竜王は、とりわけ2日制の強さが指摘されますが
早指しや1日制に際立った強さをもつ羽生三冠を
朝日杯やNHK杯で連破したことはとてつもなく大きい。
本人はずいぶん謙虚にされていますが
本当に強いな、と思います。
名人戦の挑戦権は逃しましたが、
年間グランドスラムに近い活躍を期待せざるを得ないほどの
見事な優勝でした。
【棋譜】
放映日:2013/03/17
棋戦:NHK杯
先手:渡辺明竜王王将
後手:羽生善治三冠▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩 △3三角
▲4八銀 △8四歩 ▲7八銀 △8五歩 ▲7七銀 △2二銀
▲5六歩 △4二角 ▲7九角 △3三銀 ▲7八金 △3二金
▲6九玉 △5四歩 ▲3六歩 △5二金 ▲3七銀 △4三金右
▲3五歩 △6四角 ▲3四歩 △同 銀 ▲4六歩 △4一玉
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △3一玉 ▲2八飛 △3五歩
▲6八角 △3三桂 ▲7九玉 △6二銀 ▲8八玉 △7四歩
▲6六歩 △7五歩 ▲同 歩 △同 角 ▲7六歩 △6四角
▲5八金 △7三銀 ▲6七金右 △7四銀 ▲3六歩 △同 歩
▲同 銀 △3五歩 ▲4七銀 △7三桂 ▲3七桂 △9四歩
▲2四歩 △2二歩 ▲9六歩 △9三香 ▲5七角 △9二飛
▲1六歩 △5三角 ▲6五歩 △同 銀 ▲8四角 △7二歩
▲5五歩 △同 歩 ▲5二歩 △4二玉 ▲6六銀 △7四銀
▲5一歩成 △8六歩 ▲同 歩 △5一玉 ▲5八飛 △8七歩
▲7九玉 △8三銀 ▲7五角 △同 角 ▲同 歩 △2七角
▲5四歩 △4九角成 ▲5五飛 △5二歩 ▲7四歩 △4八馬
▲5六角 △8二飛 ▲7三歩成 △同 歩 ▲6五桂 △6二玉
▲7七桂 △8四銀 ▲8五歩 △3七馬 ▲8四歩 △6四桂
▲8三歩成
まで109手で先手の勝ち