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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第39期棋王戦挑決T 永瀬拓矢六段-羽生善治三冠 古き定跡、再び王を討つ。

将棋 棋王戦

年末の忙しさにかまけて、更新ペースが凄まじく落ちております。
にもかかわらず、一定のヒットがあるようで申し訳なく思っております。
ブログ更新情報等は、右にある私のツイッターアカウント(@twinforest)、
または「棒銀くん(一般ブログ)」などを通じて通知しますのでご確認ください。

さて、棋王戦挑決トーナメントは、12/20、敗者復活戦を簡単に。
これに勝つと三浦九段との挑戦者決定戦に進出することになる一戦は、
羽生三冠と永瀬六段の対決。

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この二人は本戦トーナメントベスト4戦でもあたっており、
永瀬六段が後手横歩で初対局を制しています。
その後、羽生三冠は郷田前棋王に勝利し、
永瀬六段は三浦九段に敗れて本局に至る。

王者と新鋭、二度目の対決。
注目の対局は、相矢倉戦となりました。


棋王戦挑決トーナメントは持ち時間各4時間。
振り駒の結果、先手永瀬、後手羽生。
前回と先後を入れ換えての対局となった。

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本譜は初手から▲7六歩△8四歩▲6八銀の出だし。矢倉模様となった。
もともと振り飛車党だった永瀬六段は、今年からもっぱら居飛車を指しているが
その主戦は横歩や角換わりで、先手で矢倉はほとんど指さない。
なんとこれが公式戦では2局目(1敗)。それを羽生三冠との対局にぶつけてきた。
研究があるのは間違いなく、どの局面を想定しているのか、
どんな研究手が出るのかが注目となる。

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16手目△5二金で持久戦が確定。
ここで△7四歩は今期竜王戦で三度現れた急戦矢倉の可能性があった。
後手が急戦を見送ったことで、戦型選択は概ね先手に移る。
永瀬六段の用意は何か。

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来た。4六銀3七桂型から45手目▲2五桂。
古くからある定跡だが、今期竜王戦4局、5局で指され、
再び注目を集めている。

ごく簡単にまとめておくと、
ここ10年は、ここでいわゆる「宮田新手」▲6五歩だったが、
今期名人戦第5局で現れた森内新手(ポナンザ新手)以降、
先手に有効な打開策が見いだせておらず、矢倉定跡形は
再び宮田新手より手前の変化に光があたりつつある。

△5三銀からの急戦矢倉もいってみればその一つであり、
森内竜王名人が連採している先手3筋速攻も同じ方向性と言える。
本譜も従来後手指せるとされ、かつ4六銀3七桂型から宮田新手で
いろいろあって先手よしとされていたため、近年ほとんど指されていなかった。

しかし、2010年から中田八段が指して2戦2勝、
2012年に豊島七段も1局指して渡辺竜王に勝利しており、
先の竜王戦をいれると2010年からの5局で先手の4勝1敗。
その1敗は竜王戦第4局だったが、分かれは互角と見られていた。

後手急戦矢倉と並び、大ブレイクの可能性を秘めている。
その矢倉定跡研究の最前線に、先手矢倉2局目の永瀬六段が挑む。

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ここが後手の分岐点だった。
竜王戦第4局では後手を持った森内名人が△4五馬を指して後手勝ち。
つづく第5局では渡辺竜王が△4四同金としていた。(先手勝ち)
羽生三冠は、森内名人の手を採用。羽生三冠は、竜王戦第4局ではニコ生で解説し、
「森内名人が僅かに指せる」としていたので、これは必然の選択だったのかもしれない。

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その後も竜王戦第4局の順で進むが、ここで羽生三冠から離れた。
▲2四角△同歩▲4五飛と飛車に飛び込まれる筋を消している。
ちなみに竜王戦では△4四馬だった。勝手な推測だが、
羽生三冠は「この4四の馬が手厚い」とみて森内名人が指せると解説していたので、
逆にそこを研究で狙われると考え、あえて外したのかもしれない。
ただし、この△4四歩打でもまだ前例があり、依然として定跡の進行。
やはり後手が指せるとされている。

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後手から攻めを催促する74手目△3七銀打の飛角両取りから
▲2四角△同歩▲6三歩成と派手に攻めあって、
この△4八銀不成でついに前例が消えた。

ただ、棋譜コメによると、この手自体は森内竜王名人の定跡書
「矢倉の急所」で紹介されているそうで、以下▲3一銀△同玉▲5三と、で
△8三飛打が好手で後手よしとされている。


定跡形とはいえ、この局面まで永瀬六段は持ち時間を1時間使っていない。
永瀬六段があえてその変化に誘導したのだとすれば、この後手よしの局面から
研究手があるはずだ。

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△9三飛打。△8三飛打ではなかったが、
三段目に飛車の横利きを利かす指定局面だ。
先手はどう扱うか。

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先図から▲6三歩打△5三金▲3三桂成△6三飛と進んで上図。
この▲6六桂打が研究の手か。
6筋に回った飛車の射線を緩和しつつ歩切れの解消を狙う。
先手は一歩入れば3三に作った成桂が大きく、▲4二歩で寄り形となる。

よって控え室では、後手は△4三金として
成桂をいつでも消せるようにすれば
後手玉は相当安全になるとみていたところ羽生三冠の手も△4三金。
後手は玉形が薄いものの、先手は事実上攻めの拠点が効かなくなり、
これで後手がリードしたのではないか、とみられていた。

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▲7四桂の飛車取りを手抜いて△6九銀打。
棋譜コメからは消えてしまったが、中継中は
「この攻め合いに控え室からは歓声がわいた」とあった。
羽生三冠が矢倉に△6九銀を引っ掛けるということは、
攻めきれるということ、そういうシグナルに思えた。

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そして攻め込んでから96手目で自陣に手を戻す。
先手の攻めの拠点を取り払いつつ、桂を1枚入手。
先手が▲8二桂成と飛車を取ると△6七飛成から後手の攻めが決まりそう。
後手勝勢と思われていたのだが。

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しかし、△6七飛成に▲7八金打で羽生三冠の手が止まる。
▲7八金打では別の受け手▲6八金でも攻め合いを挑む▲5一飛でも詰む。
だが、単に受けるこの手が唯一の活路、先手玉は詰まない。


ここは、いつもんさんを含め多くの棋士が錯覚していた局面だったようだ。
もともと先手玉には多数の詰み筋が発生していたため、後手が桂を1枚入手し
△6七飛成とした段階で先手は「ほぼ受けなし」と見られていた。

よってここで先手は後手を詰ましに行く局面で、金は攻め駒に使いたい。
それが錯覚を生んでいたようだ。
単に金で受ける手で詰まないことがあるのか、と。
――しかしやはり詰まない。
必至までは行っても後手の薄い玉形で2枚目の飛車を渡す。

気がつけば好調に攻めを続けていた後手が選択を迫られる局面となった。
竜を引いて謝るか、それとも。

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終盤に42分の考慮をいれて△6九馬。
しかし、これは▲7九金打または▲6八金打で後手が受けきっているようだ。
永瀬六段は▲6八金打を選択。ここからじっくり時間をつかって
読みぬけがないかを慎重に見極める。永瀬六段が勝勢となったようだ。

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攻めを受けきって、上部脱出を図る。矢倉の勝ちパターンだ。
頓死筋が交錯する地雷原を抜ければ、先手が勝つ。

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先手玉は一段一段後手陣へ上がって行き、ここで羽生三冠が投了。
先手への攻め手が切れれば、勝ち目はなくなる。


というわけで、永瀬六段が羽生三冠に連勝し、
棋王戦挑戦者決定戦までたどり着きました。

感想戦では主に▲6六桂打の付近が調べられたようです。

一見筋悪に見えるのですが、この瞬間に踏み込んでどうか、
という難解な形勢だそうで、つまり本譜(△4三金)では
「一直線に負けにしてしまった」(羽生三冠)という状況だったようです。
それだけこの手が新定跡となる可能性をも秘めた
大きな一着だったということなのでしょう。

前局は横歩の最新研究を羽生三冠にぶつけての勝利でしたが
本局は矢倉から古くからの定跡に目を向け、
羽生三冠であればこう指すであろうとの読みから
研究局面まで誘導しての受けきりということで、見事でした。

その一点の読みに対する研究の深さもすごいですが
その局面になるという読みや洞察がすごくて、
「ネットワーク時代の勝負師」といった印象があります。
そしてその研究や対策が、今期も圧倒的な勝率を誇る羽生三冠にも連続で通用した。
永瀬六段にとって大きな勝利だったと思います。

棋王戦挑決も変則で、三浦九段は1勝で挑戦決定。
永瀬六段が挑戦者になるためには、
一度敗れた三浦九段に連勝が必要となります。

三浦九段も事前研究でリードを作るタイプの棋士とされ
前回の永瀬戦では、「横歩取らずの相掛かり」と佐藤康光九段が多用する戦型で
横歩狙いの永瀬六段の読みを外し、
それでも永瀬六段が指せる展開まで持っていったのですが
最終的に三浦九段が勝っています。

どちらが研究局面に誘導できるかという事前準備段階での戦いも
すでに始まっているのでしょう。その辺も注目なのかもしれません。