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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第72期順位戦B級1組9回戦 広瀬章人七段-豊島将之七段 俊英たちの籠城戦。

将棋 順位戦

11/14は順位戦B1・B2一斉対局。

数あるカードの中で最も注目度が高かったのは、
この俊英対決だったのではないでしょうか。

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鬼の棲家B1で唯一の20代激突カード。
しかも本局まで6-1でトップを走る広瀬七段と
6-2で暫定2位につける豊島七段の直接対決。

昇級争いもからむ大一番は、
想像をはるかに超える大激戦となりました。


先後は事前決定で先手広瀬七段、後手豊島七段。
過去の対戦は2局あり1勝1敗。
順位戦は持ち時間各6時間。会場は関西将棋会館

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広瀬七段は「振り穴王子」の異名で知られる振り飛車党だったが
最近では特に先手番での居飛車の採用率が高くなっている。
本譜では3手目▲2六歩として居飛車を明示、
5手目▲7八金として角換わりを目指した。

これに対して豊島七段は素直に受けず、6手目△9四歩と様子見。
角換わりの出だしから後手9筋端歩突きは、
今期王位戦第5局、王座戦第1局で登場している。
そのときは両局とも先手が▲9六歩と端を受けて一手損角換わりになった。

ただ、本譜では上図面▲2五歩と突き越しての角換わりに進行。
角換わりでは、飛車先突き越しは腰掛け銀となった時に
右桂を跳ねる選択肢を狭めているため、得ではないと言われている。
それゆえ△8五歩を保留できる後手番一手損角換わりが流行することになったのだが、
広瀬七段はあえて▲2五歩としての角換わりを目指した。
△9四歩との交換は有利と見ているのだろう。
結果、戦型はともに飛車先を突き越した角換わりとなった。

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先述したように、「腰掛け銀では▲2五歩型は手が狭い」ことから
先手は早繰り銀または棒銀と、急戦調の将棋を目指すものと思われた。
しかし、広瀬七段は▲4六歩~▲4七銀と腰掛け銀を目指す。
後手が9筋を突いていることから、後手が早繰り銀や棒銀となった際に
攻撃を受ける左辺をケアするということだろう。

これに対し、後手は早繰り銀を示唆する△7四歩。
先手が▲2五歩を突きながら腰掛け銀を目指すならそれは手損でしょう、
その隙を突いて速攻しますよ。という牽制だ。

そうすると今度は先手が後手早繰り銀を牽制する▲3六歩。
△7三銀~△6四銀と早繰り銀にしてきた場合に
▲3七桂~▲3五歩~▲4五桂という飛び蹴りの筋を見せる。

後手は飛び蹴りが入るとさすがに痛い。その速攻を防ぐために右図、
早繰り銀を断念して△6四歩から腰掛け銀を目指す。
主導権を争いあう難解な序盤戦になっている。

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先手は腰掛け銀まで持ってきた。
結果、複雑な駆け引きの末に王道の相腰掛け銀になった。

と思いきや、なんと後手は△7三銀~△8四銀と進出、
早繰り銀を捨てたと見せて、早繰り銀の筋から棒銀を目指す。
先述した▲3七桂~▲4五桂の速攻は、銀が5六に腰掛けてしまうと
▲4五桂と跳ねた時に△3七角と飛車をどかしてから
△4六角成の筋で馬を作られてしまうから指しにくくなっている。

先手から1~4筋への速攻がなくなるならば、
腰掛け銀でバランスを取る必要はなく、
△9四歩を活かして棒銀で攻めることができる。
先手右銀が腰掛けた瞬間に棒銀へと切り替える。
もともと角換わり三すくみでは、
棒銀は腰掛け銀に強く、腰掛け銀は早繰り銀に強く、早繰り銀は棒銀に強い、
と言われてきた。先手が腰掛け銀にするのなら、
棒銀にして攻めるのは同理にかなっている。

もっとも、先手も腰掛け銀としたタイミングは悪くなく、
十分に棒銀を迎撃できる猶予はある。
ともに凝った手順だが、結果として

先手:飛車先を突き越した腰掛け銀
後手:腰掛け銀を囮とした早繰り銀調の棒銀

の対決となった。序盤からともに読み筋が激しく交錯する。

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駒組が進み、陣形が整備されてみると、
先後はほぼ同型だが右銀だけが違う。
後手は棒銀で8四の地点から飛車先での捌きを狙う。

一方、後手はその棒銀を食い止めるために6七で受け止める。
結果、銀矢倉になっている。互いに角を手持ちに、
銀矢倉と棒銀と、どちらが優っているのかを問う戦いとなった。

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棒銀が仕掛け、銀矢倉が守る。
後手は攻め込んだ以上、勝負を決めるか、
少なくとも優勢に運ぶだけの戦果が必要だ。
左図で棒銀が捌けた。ここで▲同銀△同飛までは必然。

そこで▲8七歩打とシンプルに歩で受けたときに後手に何かうまい手があるか。
△7六飛と飛車を切っていくと▲同金△同角に▲3一銀と打ち込む手がある。
△同玉は▲7一飛で、△同金は▲7二飛でともに王手角取りが痛い。
△1二玉は▲7二飛が角金両取りで、飛車を切る手はみな先手が指せそうだ。
かといって先に△7六角でも素直に飛車を取られて先手よし。

右図、豊島七段は1時間以上の長考を入れて飛車を引く。
攻めきる筋は見えなかったか。
あるいはある程度崩したとみて仕切り直しということか。
先手は凌いだからには反撃を狙いたい。
▲5五銀打と角をどかして立て直しを図る。

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ただ、後手は角を切ってから遠巻きに攻める△4八銀打。
悠長なようで次に先手の攻防の角または桂をとって飛車に当てられるので
先手の手を催促している。棋士室の船江五段、西川四段は
後手の攻めがしつこいと見て後手がいいのではないか、との見解だった。

ただ、右図で後手は迫り方を誤る。△9八金が勝ったようだ。
シンプルに金を銀の腹に放って圧力をかけるのだが
▲6七銀△同金で手持ちの駒が金から銀に変わってしまい
▲7八銀などと受けられると迫る手がなくなっている。
先手は危機を脱したようだ。形勢が揺らぐ。

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先手は待望の反撃、勝負手気味に▲8三銀。
△同飛では、▲同角成と2九の角が一気に前線に飛び出す。

それを受けて後手は右図△4二飛と逃げる。
玉飛接近の悪形だが、やむを得ないところだろう。
このあたりは危機を脱した先手が攻め味を見せ始め、
自然と攻守が入れ替わったように見える。
事実、ここから先手が事前に傷をつけていた1筋を拠点に
後手玉頭を攻め続ける。

ところが、後述するが、このあたりが本局の
勝負の分かれ目となっていたという。

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先手は1筋攻めで玉頭攻めに効果を発揮する桂香を入手、
続けて飛香で2筋に狙いを定める。
対して後手は▲1五銀と香をかわしつつ飛車を封じ込めにかかる。

先手は右図の1手前、飛車を囮に▲5六角。
2九に眠っていた角を再び攻防の位置に進出させる。
6七の金をとってしまえば先手玉の耐久力が上がる。

一方、後手はその金取りを逃げずに飛車を取った。
玉頭を狙っていた飛車を取りきったことで
後手玉の危険性も薄らいだ。また仕切り直しとなり
今度は再び後手のターンに。

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後手は△9七歩打と△9八飛以下の詰めろをかけ、
▲7七玉に△3九飛打。△7九飛成と△3七飛成の両狙いで感触よし。
しかし、左図▲4九桂打が受けの好手。
△7九飛成と△3七飛成を同時に消す上に、
自身は角の効きに守られている。形勢自体は後手よしだが
飛車を足止めしたことで先手にも上部脱出の可能性が見えてきた。
広瀬七段はこのあたりから1分将棋。後手からの厚い攻めにそれでも粘り強い手が続く。

後手は上部脱出を図る先手を追って角を取りきるが
ここで右図、先手が一瞬の間隙を突いて▲1一銀打ち。
△同玉で▲1三歩成からの詰めろ。この時点で先手玉に詰みはなく
詰めろが続けば先手が勝つ。これは受けきれているのか。

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後手はしっかり受け切った。詰めろは続かない。
これではっきり後手勝ちになったと思われたが。

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まだ広瀬七段はあきらめない。先手玉にも決め手は迫っていない。
上部脱出を狙い空中要塞を築く。
次に▲7三歩成で先手玉は簡単に寄らない。
このあたりで豊島七段も1分将棋に突入。
それぞれに相手の斬撃を紙一重で交わしながらの攻防が続く。

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しかし、先手がはっきりと敗勢を意識したのが
この154手目△8一桂打。角・飛車とあわせて
先手玉の脱出ルートを閉ざす手となった。

ただし、今この段階で後手に決め手があるわけではない。
入玉を狙って進出、と同時に先手の大駒にも働きかけ、
持将棋の目を消していく。ようやく後手がはっきりと抜け出したようだ。

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最後は角を切って横から縛り、ここで先手が投了。
終了時間は2時03分、手数は186手まで。


序盤、中盤、終盤と難解な形勢が続き
双方一分将棋に入っても、相手に決め手を与えない、
凄まじい一局となりましたが、最後には後手が勝ちきりました。

形勢がどんどん入れ替わっていたように見えて
ただし、広瀬七段にとっては序盤から「つくりに問題があった」とみており
苦しい将棋になってしまった、ということのようです。

ただし、後手が寄せを誤った直後の

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この局面については、先手にチャンスがあったらしい。
上図▲8三銀打では、▲7八銀と受けて置けておけば
後手の攻めはほぼ切れており、先手優勢となっていたようだ。
このあと、飛車を逃げられて打った銀が働かない展開となってしまった。

よって、その後も双方に含みのある展開になったものの
先手は相当勝ちにくく、後手は負けにくいかたちになっていたという。

勝った豊島七段はこれで単独トップとなる7勝2敗。
ただしこの後抜け番があり、残り対局数は3。順位が最下位だけに
昇級へはギリギリの展開が続く。

負けた広瀬七段は6勝2敗。残り4局、
やはり落とせない戦いが続きます。