二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第63期王将戦挑決リーグ 深浦康市九段-豊島将之七段 踏み込む強さを。

渡辺王将への挑戦権をかけた第63期王将リーグは9/30、開幕。
王将リーグは、本局で対戦する深浦九段、豊島七段のほか
佐藤康光前王将、羽生三冠、谷川九段、郷田九段、久保九段の
そうそうたるメンバーによる総当たり。
挑決1、残留3、陥落3と、
1勝で挑戦から陥落まである厳しいリーグです。

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その開幕カードが深浦-豊島戦。
最新の横歩戦で豊島七段がその研究局面に誘います。
深浦九段は、そこに堂々と踏み込みました。


先後は事前決定。先手深浦、後手豊島。
王将リーグは持ち時間各4時間。

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横歩取り△8四飛で後手が中住まいから△7二銀。
先の竜王戦挑決第2局(森内-郷田)でも現れた形で、かなり新しい。
その時は、郷田九段から2筋飛車交換を誘い、森内名人がこれを受けたが
その直後に森内名人が▲8四飛と打ち込んで以降、
先手良しとなっている(結果、先手勝ち)。

前掲記事でも触れているが、その直前に行われた電王戦タッグマッチでも
類似局面があったが、そのときは後手勝ち。
主に関西で研究が進んでいるようで、豊島七段に研究があるのだろう。

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やはり飛車をぶつけた。ただし、森内-郷田戦の時には
△1四歩の代わりに△2三銀が入っていたので既に局面は未知の世界。
つまり、竜王戦挑決では、飛車交換時に飛車を銀でとる形となっていたのが
今回は角で取ることになる。

たしかに前例では、飛車を切られたあとに▲1一角成と飛び込まれて
先手に大きく形勢が傾いたが、これならその筋は防げている。
これで後手が良くなっているかどうか。

深浦九段は、少考で飛車交換に応じ、
あえて豊島七段の研究に飛び込んでいく。
こういう勝負は「許さん」と受けて立つイメージがある。

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昼食休憩の局面。

先図面から、先手はやはり▲8四飛を打った。
角取りと▲8二飛成の両睨み。
これに対し、後手も2五に飛打。桂取り+角へのひも付け。
先述したように、後手は2二に銀が残っているため、
先手角の飛び込みを防いでいるとの主張。
よって、飛車角交換では後手よし。
また、▲8二飛成と竜を作る手では△2九竜と成り込まれて困る。

よって、双方2筋8筋に歩を打って傷を消し、
先手の飛車が3筋に回ったところが現図面。
大駒が集まって団子状態のつばぜり合い。
これら主戦を好位置に使えるのは先後どちらか。

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後手は7二銀を活かして美濃に組む。
先手は左辺を盛り上げてこれを咎める構え。
中段の大駒は依然固まって主導権争いを続ける。

現段階、局面は互角。
先手が一気に優勢となった森内-郷田戦を考えるならば
後手の研究が生きているとも言える展開。

ただし、中盤で大駒が火花を散らす横歩取りでは
あっという間に形勢に差がつくことがある。
そして本譜でもそういう形となった。

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先手が美濃崩し狙いに飛車を左辺に振り、
急所の8筋に突き捨て。前図面から7手。
先手の自然な攻めに見えるが、この段階ではすでに形勢は先手に傾き
そしてこれ以降、後手にチャンスはなかった。
気づけば、後手の大駒は右辺に孤立しており、攻め手が見いだせずにいる。
先手は美濃攻めに集中できる。

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後手は苦しいながらも攻めあう順を作るも
局面が落ち着いてむると、玉形の差が大きい。
先手がはっきり優勢。

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上部脱出の芽を詰む。

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投了図。
▲6二桂成△同金▲5二金以下の詰めろ。

深浦九段が豊島七段の挑戦に飛び込み、快勝しました。
感想戦では51手目以降についてはほとんど触れられず、
その前に勝負がついてしまった、ということのようです。

ただ、後手にも十分チャンスはあり、
勝負どころを間違えてしまった、と。

具体的には自陣に手を入れた46手目の局面。

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この手は、5三を受けながら、△4四角として
角交換の後に△5四角と飛車をいじめる攻防の筋違い角を狙える。

この本譜では見られなかった△4四角が成立するかが後手のポイントで
結論からすれば、この局面に△4二金ではなく△8二玉と入城した後に
▲7五歩△4四角で後手よしの局面にできたという。

本譜では先手が飛車を先にげしつつ、玉頭攻めに使われた
▲7六飛(49手目)で勝負がついてしまった。
それ以降は△4四角から交換となっても角を打ち込む場所がなかったようです。
それを見逃してしまうと、先手の飛車が狭く、攻防に利かなかった。

とはいうものの、その瞬間を許さずに
攻め込む形を作った深浦九段の踏み込み。決断が見事だったと思います。

A級順位戦・渡辺竜王戦でも出た、
飛び込んで組み伏せる、ここ一番で踏み込む覚悟と強さ。
深浦九段らしさがでた勝負だったと感じました。