二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第72期順位戦B級1組5回戦 阿久津主税七段-豊島将之七段 対なる決断、異なる結末。

第72期順位戦【A級】【B1】【B2】【C1】【C2】

8/22に行われた順位戦B級1組5回戦から阿久津-豊島戦を紹介します。
B1には13名の棋士が在籍していますが、
携帯中継の都合上、豊島七段戦はこれが4回目の紹介。
もう一局の中継は広瀬-藤井戦だったのですが、
ともに一度は紹介している一方、
阿久津七段の対局はいままで紹介していないので、こちらに。

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阿久津七段は、ここまで1勝2敗(抜け番あり)。
山崎七段(当時)、広瀬七段と連敗を喫したものの、
藤井九段に勝って豊島戦を迎えます。
昨年くらいから思うように勝てない時期が続いていましたが
星の流れを見るに、ここにきて復調の気配が見えているように思います。

一方、豊島七段は、ここまで4連勝。
他棋戦でも順調に白星を重ねており、近10戦では8勝と好調をキープ。
連続昇級を狙える位置にいますが、
ただ順位が低い上に総当たりのB1では最終戦まで油断できない戦いが続きます。

本局は阿久津七段の趣向により、力戦模様に。
序盤戦から難解なねじりあいが続きましたが、
終盤では意外な差がついていました。


先手阿久津七段、後手豊島七段。

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横歩模様と思いきや、先手が15手目に横歩を取らずに▲9六歩と端歩を突く。
これに呼応して後手は飛車を引き、先手も飛車を収めて相掛かりに。
双方飛車先の傷を消して、ここから仕切り直しと言った展開に。

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仕切り直して、この状態。
展開としては、角交換を挟んで
後手が引き飛車棒銀の構えから右銀を中央へ+角を5四に設置。
先手はやや飛車を追われる形でひねり飛車となった。

先手が序盤に9筋を突いたことから、
一般的な相掛かりと手番が逆になっていて
先手が持つことの多い引き飛車棒銀を後手が指し、
後手が飛車を浮いて攻防に利かせようという展開。
ちなみに、43手目だが時間は午後九時を回っている。
じっくりとした序中盤となったが、ここが本局の大きな岐路だった。

△8六同飛と飛車交換とすれば、互いの陣内に飛車を打ちあって
一気に終盤というか勝負にケリをつける場面まで行きそうだ。
あるいは△8五歩と先手の飛車を目標に抑え込みに行く順。
さらなる持久戦として手厚く戦う方針ならこちらだ。

控室の評では、どちらでも後手が指せそうということだったが
豊島七段の選択は後者だった。後手は居玉のまま進めていたため
激しい順になった時の展開に危うさを感じたのかもしれない。

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手裏剣を飛ばす。基本的に桂は助からない。
先手は▲6六歩と手抜いて銀を捌きに行くか
あるいは飛車を2筋に回して飛車へのロックオンをかわすか。

先程とは逆に、ここでは後手に仕掛けるか、待つかの選択があった。
阿久津七段の選択は、飛車を2九に引く持久戦。
先手と同様、再度の駒組合戦を受けて立つ。

桂損にはなるものの、ここからの駒組みとなれば
居玉の後手よりまとめやすい上に、後手は歩切れ。
先手は角をまだ駒台に乗せており、切り札になる可能性を持つとの読み。
結果的に、この判断は冷静だった。

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深夜の二次駒組を経て、先手は矢倉に収まった。
後手も体裁を整えている。
ただしここに至ると、控室は先手持ちとなっている。
お互いに構えを整えた以上、攻めを作ったほうが優勢になるが
後手は桂得だが歩切れのため、なかなかその拠点を作れない。
一方、先手は攻防のバランスがよく、角を手持ちにしているのが大きい。

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先手右辺で後手の囲いを崩してから角を設置。
飛車と角が効果的に後手玉に圧力をかけている。先手優勢。

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後手も攻防を尽くして粘ったが
先手は形勢をつかんでから離さなかった。
最後は即詰みに討ち取って先手勝ちとなった。
投了図以下は△3一玉から▲4二と、と飛車を取って、
その飛車を即▲5二飛と打ち込んで詰む。


阿久津七段が豊島七段の連勝を止め、
自らも昇級戦線に加わらんとする2勝目を上げました。
難解な展開でしたが、じっと飛車を引いて機を待ち、
二次駒組から後手より先に好形を作って最後は押し切りました。
仕掛けて力戦形の将棋となったのですが
最後には定跡形のセンスが生きる形になったように思います。
万全の態勢を作ってからの展開はさすがでした。

一方、豊島七段は逆に攻め込むポイントを見送った判断、
具体的には、後手が飛車をぶつけてきたときに
取る手からの変化でどうだったか、という気がします。

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感想戦のコメント等が反映されていないので
よくわからないところもあるのですが、
控室では、大石直嗣六段が△8六同飛から飛車を交換して
△3九飛と打ち込むと先手が困っているのではないか、
と指摘していました。

実際には、どうなのかはわからない部分もあるのですが
それ以降は先手陣がどんどん良くなった印象があるので
一つのポイントではあったのでしょう。

先後それぞれに訪れた攻か守かの選択で、
対局者はともに待機策を選びました。
しかし、それが勝負を分けたのかもしれません。

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