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二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第26期竜王戦決勝T 郷田真隆九段-佐藤康光九段 敵陣に在りて己に克つ。

【渡辺竜王による本戦展望】
【本戦参加棋士のコメント】

いろいろあった8/9には、竜王戦決勝トーナメントもあったのです。
既に森内名人が進出を決めている竜王戦挑決に向けた最後の関門は
1組優勝の佐藤康光九段と同4位の郷田九段の対局。

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ともに今年初春のタイトル戦で、渡辺竜王に敗れて失冠しており
借りを返したい想いは強いでしょう。
そのためには、まずこの戦いに勝ち、
森内名人との三番勝負を制さなくてはならない。

棋界最高位への挑戦にふさわしい大一番は、
予想にたがわず大熱戦となりました。


【棋譜中継】特設サイト

振り駒の結果、▲郷田九段、△佐藤九段。

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佐藤九段が開祖であるダイレクト向かい飛車へ。
角交換振り飛車の大流行もあって、人気が上昇しており
順位戦一斉対局などでは右も左もダイレクト
というシーンがみられるまでになっている。

佐藤九段はA級等で連採しているが、
最近では、A級羽生-谷川でも見られたように
他のトップ棋士の間でも広まりつつある。

もともとは力戦振り飛車という扱いだったが、定跡化が進んでおり
▲6五角打からの乱戦には、7筋に飛車を振り直して居飛車っぽくさせるのも
居飛車主戦の裏芸として採用数が増加している理由かもしれない。
ただ、本譜では先手は6五角を見送り、じっくりとした展開となった。

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先手は銀冠を狙い、後手は穴熊に囲った。
後手陣では、一目▲3一角の割り打ちのキズが目につく。
先手は比較的容易に馬を作れそうだが
「それでも指せる」という判断の元に指している。
▲6五角への対応でもそうだが、一目危険な筋を打たれても
十分指せるという胆力、腕力がなければこの作戦は成立しないのかもしれない。

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後手が先手の銀冠を咎める形で開戦。
先手は銀を3五まで進出させ、先手右方の突破を狙うと
先手は後手の飛車のコビンが空いたことから▲7七角打と牽制。

後手が角を合わせて、ともに3筋に飛車が向き合う形となってこの局面。
先手が8筋を突き越して穴熊の急所を狙えば、
後手は3筋に歩を垂らして先手右辺での主導権を取りに行く。

実はこの局面が中盤の焦点だった。
先手はこの次、▲6八金寄として割り打ちを防ぐのだが、
この時に▲4四角と角交換をすれば先手よしだったという。
後手は角の取り方が難しく、△同銀とすると右辺を明け渡す。
されとて同歩とすると、飛車のコビンが再び開くことを契機として
8筋を一気に攻められてしまう。

一例は、▲4四角△同歩▲8三歩△同銀で、
次の▲6五角が激痛の飛車銀両取となり、先手は一気に優勢となる。
ただ、この筋は、先手が6八金寄としたことで消えた。
銀のヒモが切れたことで、先の▲5六角の時、後手が△7四角と
あわせることができるようになったため。
結果として、本譜はもつれにもつれることとなる。

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夕休明けの盤面。1~4筋での難解な主導権争いが続く。
先後双方に飛車取りがかかっているうえ、後手には銀取も残っている。
ただ、中継室の中村太地六段によると、このままてなりに進行すれば
振り飛車がさばけそうで玉形からも後手が指しやすそうとのことだった。

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だが、銀を取らずに放ったこの角打ちで先手も盛り返す。
3九の飛車にヒモをつけ、▲3三歩の狙い。
▲3三歩は、飛車を助けたいなら逃げるよりないが、
飛車が3筋から離れれば、銀当たりが解除されて2九の角を奪うことができる。

これまで以上に攻め合う展開になりそうだが、
少なくとも後手は大駒を手放す覚悟を強いられそうだ。

先手が主導権を握り返したように見えるが、
後手の穴熊は手つかず。勝負という観点からすれば未だ形勢不明か。

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右辺での攻防に整理がつき、駒割りは飛車と金銀の2枚かえ。
そしてついに終盤戦に突入する。
先手は8筋を攻め、後手は飛車を狙いつつ自陣玉頭にも利かす角打ち。
ここからし烈な塹壕戦が始まる。

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技と技がぶつかり合った玉頭戦では、何か所かポイントとなる場面があったが
そのうちの一つがこの局面。銀打は指し過ぎ(受けすぎ)で
単に△9四銀とすれば、後の手番で攻めが続き、
先手玉を寄せられた可能性が残った。
後手は、先手より堅陣なのだが、各駒の自由度は少ない。
少しでも受け方を間違えれば、差は詰まってゆく。

そして結果、少しずつ郷田九段が前に進んだように思えた。

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苛烈な攻防が続いたのちの103手目。
先手が後手玉を寄せに行った手だ。斬り合ってもかわせるとみた。
読み切ったか。

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後手の最後の反撃をかわしきって、
詰将棋のような華麗な捨て駒で決着。
同銀、同歩どちらでも詰む。


大激戦を制したのは郷田九段でした。

感想戦によると、終盤に入った段階では、後手が対応を誤らなければ
囲いの差が大きく、後手が余していたのではないか、ということです。

ただ、終盤に入る直前の▲6六角打の印象が強く、
後手は実際の状況以上に形勢を悲観してしまったようで
受けすぎてしまった、というところでしょうか。

総括をするならば、中盤の段階で先述した▲4四角を決行していれば
そこから激しい展開となって先手が余していたということのようですが
しかし、郷田九段はもともとこの対局では、
終始じっくりと相手の攻防を見たうえで、その時、その局面で
一貫して丁寧に指すことに努めていたわけで
最終的にそのほうがいい結果をもたらしたかもしれません。

大激戦の中でも乱されず、自分の流れを貫いて指し勝った。
郷田九段らしい勝ち方だったといえるのではないでしょうか。