二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第72期順位戦B級1組4回戦 豊島将之七段-山崎隆之八段 対抗ベクトルの突破点。

第72期順位戦【A級】【B1】【B2】【C1】【C2】

アクセラレータ(一方通行)の中の人、
岡本信彦さんはアマ三段の実力者で、
個人的にはペルソナの印象が強いです。(なにこれ)

8/1は、順位戦B1とB2の一斉対局。
そのほかに達人戦準決勝(森内-谷川)もあったのですが
やはり同日最大の注目カードは関西若手エース対決。

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初の順位戦B1で3連勝と視界良好の豊島七段と、
先日、八段に昇段を決めたばかりの山崎八段との対局。
対戦成績は、山崎八段の4勝0敗と、豊島七段に勝ちがありません。
A級に昇級するには「越えなければならない壁」の一つ。

一方、山崎八段はここまで1勝2敗。
正直、不本意な成績でしょうが、12戦も行うB1では
2敗は十分巻き返せる位置。相性のいいライバルとの直接対決を
簡単に落とすわけにはいかない。

対局は、序盤から山崎八段らしく「予想通りの意表の出だし」。
そこからお互い一歩も引かない激戦となりました。


順位戦のため、先後は事前決定。
先手豊島、後手山崎。

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いきなり衝撃的な展開。豊島七段が、
「先輩、(一手損)角換わりとか受けて立ちますよ。
 まあ横歩でもいいですけど。」
と後手に飛車先を突くよう打診したところ、
なんと山崎八段は角道を開けたまま4筋に飛車を振る。
「角交換振り飛車」の出だしだ。

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山﨑八段の作戦は、振り飛車4→3戦法。
大石直嗣六段、戸辺誠六段が得意とする「後手番石田流」で、
手損は引くが4筋に途中下車することで、
直接3筋振りやダイレクト向かい飛車などが脅威にさらされる
▲6五角打の両取りで馬を作られる筋を消している。

これも角交換振り飛車の派生形にあたるのだが、
最近では7/25の棋王戦挑決トーナメントで
森内名人が畠山鎮七段戦で採用して勝利してます。
(作戦自体は成功したとは言えないけど。)

居飛車系オールラウンダーの後手番裏芸として
流行しそうな気配です。
そういえば、8/4放映のNHK杯で西川四段も披露してましたね。

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手数で言うとまだ24手目なのだが、
後手はガンガン攻めに出る。
いきなり角を犠牲にと金を作って
桂と5八の金を狙いに行く果敢な攻め。激しい。

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後手は角を渡して金桂を駒台に乗せるやいなや、
取った桂を1四に打ちつけ、銀を狙って攻めをつなごうとする。
先手はここで銀を引いているようでは、
後手にいいようにやられる。

よって、先手は銀を引かずに▲7七角と攻め合う。
銀を取られるが、その間に後手左辺の突破を狙う。

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先手の反撃。
先手は2筋に、後手は3筋に飛車を構え、
それぞれに突破を狙い、対抗するベクトルが
すれ違いざまに盤右辺で火花を散らす。
どちらが側面攻撃を成功させるのか。

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両者一歩も引かず、右辺での斬り合い。
後手は▲4三との飛車金両取を避けず、
踏み込んで飛車取りをしかける。勝負どころだ。
先手は判断を迫られる。さらに踏み込んで金か飛車を取りに行くか。
それとも飛車を逃げて立て直すか。

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しかし、豊島七段の選択はそのどれとも異なる▲2二歩成。
相手の飛車取り、自陣の飛車取りをともに放置して
後手陣内に火をつける驚愕の一手。

ここには7七の角がひもをつけていて
どう対応しても先手の攻めが突き刺さる。
まさに領域外からの刃。

結果的にこれ以降、後手は展開を好転させることはできなかった。

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攻め合う展開ながら、ここで自陣に手を入れる。
後手陣の「と金の遅早」を補強し、
「固めたのであとは攻めますよ」という宣言。

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そしてここで山崎八段が投了。
投了図以下は△8二玉に▲7二金からの即詰み。
79手、終了時間20時27分と、順位戦にしては
意外に多くの時間を残しての終了となりました。

山崎八段は1勝3敗。
序盤、相当意欲的に将棋を作っていったのですが
すこし踏み込み過ぎたか、豊島七段に合気的に
返されてしまった印象。

豊島七段は4連勝。
1期抜けでのA級昇級に向けて視界良好といった感じの
隙のない、丁寧な指し回しでした。
山崎八段のすさまじいばかりの踏込にも
退かず臆さず切り返し、相手が望んだ斬り合いを受けて立ったうえで
短時間で即詰みに切り結ぶという、完璧な勝ち方。

その中でも特に印象に残ったのは▲2二歩成。
「大駒の取り合い」という直前までの流れと先入観を切って捨てて
視線が集中するその外から匕首を突きつける。
静かな、そして鮮やかな一撃でした。

同じく順位戦の木村八段戦
左辺の攻防から一転して中央に打ちつけ
一気に寄せに入ったという将棋でしたが、
そういう視野の広さというか、
その時の局面に囚われない指し回しが印象的です。

まだまだ先は長いですが、しかし強い。

第72期順位戦【A級】【B1】【B2】【C1】【C2】