二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第72期A級順位戦 渡辺明竜王-郷田真隆九段 双頭槍の刹那。

【第72期A級順位戦 まとめ】

「囲碁vs将棋棋士の人狼」を横目に、
宿題を一つ一つ片付けようの巻。

まだいろいろあるんですけれどー。

7/26、A級順位戦は2局。
佐藤-羽生戦と本譜。

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ともに初戦を落とした、順位上位の二人。
挑戦権争いを考えると、序盤で連敗はしたくないところ。

ただ、この二人はそれだけではなく。

佐藤-羽生戦が通算151局目だという話ですが
渡辺-郷田戦もここのところ、対局数が激増しており
何とこれが本年9戦目。番勝負が4局(棋王戦)ありましたが、
それ以外にも4局指されていて、ここまで渡辺5勝-郷田3勝。

しかも、挑決やそれに準ずる対局で当たることが多く、
現時点でのS級棋士と言っても過言ではない二人。
今後のためにも、簡単に負けるわけにはいかないところ。

そういった背景もあってか、先手・渡辺竜王は角換わりを選択。
難解な中盤のねじりあいの末、勝負は一気に決しました。


本譜は角換わり。

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相腰掛銀。後手待機策の普及で後手も戦えるとされていましたが
先手の対策(1八香パス)などで基本的には先手よしとされている状態。
後手の工夫が必要なのですが、決定版はまだ見いだせておらず
全体として角換わりの後手は避けられているという。

しかし、後手番では「でてこいや」の2手目△8四歩を指す郷田九段は
後手でも角換わりを受ける。結果として、今年度4敗(9勝)のうち
3敗が角換わり(行方戦は先手でしたが)といささか分が悪い。

渡辺竜王戦に限って言えば、
本年8局のうち、角換わり3局はすべて竜王勝ち。
周到な準備と事前研究を本旨とする渡辺竜王は、
それゆえ角換わりを仕掛けたのでしょうが、
「受けて立つ」の郷田九段は淡々とそれを受ける。
この時点で、盤上に双方のこだわりを見る気がする。

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と、ここで後手から工夫の6筋突き越し。
部分的には先のA級、▲郷田-△行方戦を思わせる(後手勝ち)が
その時は後手は7筋も突いており、▲6四角を打たせる狙いだった。
本譜では7筋を保留しているため、角打は成立しない。

この場合は先手の仕掛けを牽制する狙いがあるとみられる。
先手番は、飛車を回した4筋から▲4五歩と仕掛けることが多いが
その時に△6四角と打てば、桂及び間接的に飛車を狙って馬を作ることができる。

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よって、先手は▲4七金として△6四角打の際に狙われる桂にひもをつけつつ
飛車を6筋に回して△6五歩を咎めにいく。
ここで後手も飛車を6筋に回し、飛車対抗としていれば
前例のある形に戻ったというのだが、後手は△7四歩→△7三桂として
飛車を回さずに6筋を支える。後手の居飛車は玉頭に狙いを定めている。
「その手には乗りませんよ」と言ったところ。

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それなら、と先手は戦力を1筋に集める。
一方、後手も銀を上がって攻防に利かす。
先手が攻め、後手が受けるという一般的な
角換わり相腰掛銀の展開と異なり、攻め合いの将棋になりそうだ。

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▲4五歩から開戦の後、後手は玉頭に打診。
▲8六同銀として両玉のコビンが空いたところで
「絶対先手」の王手となる角打ち。
飛車角が先手玉にラインを重ねて圧力をかける。

一見、後手が主導権を握ってよさそうだが、
ただ結論から言えば、△3三角打より△5五角打のほうが
勝ったようだ。3三では、角の可動域が狭く、
その後の活用が限られてしまう。
後に5五を先手角が活用することにもなったため、
このあたりから先手が徐々に良くなっていったらしい。

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先手は▲5五角打から馬を作って飛車を8筋からどかし
後手の角にも圧力をかける。
一方、後手も先手の端攻めの拠点に銀を放り込む。
飛車と香を取り切れば、先手の攻めを担うはずだった砲台に
大ダメージを与えられる。
この手を竜王は軽視しており、攻撃の再構築を図られることになる。
先手の流れを食い止められるか。

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それぞれに攻め手を見せてこの局面。
実は、後手に大きなチャンスが来ていた。
先手は△7六歩に▲8六銀、△8五歩打に▲7五銀とかわすのだが
感想戦で竜王は、「負けていたら敗着級、酷い手だった」と振り返る。
どうやら、△8五歩打がなぜか全然見えておらず、
指されてしびれてしまい
「だったら△7六歩に▲同銀のほうがずっとよかった」としている。
この終盤で、銀を囲いから大きくはがされてしまった。

ここで、後手には△4九飛があり、そうなれば相当難しかった、
むしろ後手勝ちなのではないか、と感想戦ではまとまったが
本譜は△1七銀成で香を補充。
玉頭ラッシュに備える、自然な手だと思うのだが
結果的にこれが敗着だという。

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後手の攻めを受けつつ、間隙をついて▲4六香打。
この香は、先に銀成が補充していたものだが、
寄せの手順のなかで渡していた。
この手が激痛で、以降、一気に先手勝ちに進む。

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先図面から2手後に、先手は銀を斬り込ませる。決めに行った手だ。
銀と馬を対角に連続で切り込ませ、寄せのルートを切り開く。
勝負あったか。

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そしてこれが投了図。
△2二玉は▲3二金からの即詰み、
△3三玉ではより短手数で必至がかかるが
先手玉に詰みはなく、投了となった。


斬り合いの将棋だったため、最後は一気に勝負が決しましたが
その直前までどちらの切っ先が先に急所をとらえるかわからない
白熱したねじりあいとなりました。
(実際、ボナンザ読みではほぼ後手よしで進行しているくらい)

攻め合いゆえ、終盤に一つ攻める瞬間を逃すと
それだけでこんなに大きな差となるのか、と
改めて思わされます。

この対局も、香車の取り方渡し方で
大きく形勢が振れてしまった。

思えば王座戦挑決準決勝の時も、
終盤の一瞬の踏込で勝負がついた対局でした。
この二人が斬り合うと、こういう形になりやすいのかもしれません。

これで渡辺竜王は1勝1敗ですが、郷田九段は0勝2敗となりました。
まだ先は長いですが、この序盤の躓きがどう影響するのか。
ともに挑戦者になる可能性があるとされていただけに
今後の展開に期待、です。