読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

二森日和。

将棋をみた感想。たまにサッカー。ごくまれに雑談。




第72期順位戦B級1組3回戦 木村一基八段-豊島将之七段 天王山からの跳躍者。

将棋 順位戦

【第72期順位戦B級1組まとめ】

↑まとめました。

総当たりのため、対戦数の多い順位戦B級1組は、
7/18にはもう3回戦一斉対局。

今回のモバイル中継局は、本局と山崎七段-松尾七段戦で、
モバイルでの登場棋士がすでに全かぶりという、
すごい偏り方になっております。(↑のまとめ参照)

なにこの紹介棋士の偏り方。一応、昇級候補の対局を中心に
紹介しているということなんでしょうか。謎だ。

f:id:nisin:20090618165842j:plain

先手の木村八段は、1回戦抜け番の後
2回戦で山崎七段との相掛かり戦を逆転勝ち。
緒戦を飾っています。

一方、連続一期抜けでA級昇級を目指す豊島七段は
1回戦で藤井九段を、2回戦で高橋九段を、
それぞれ撃破、連勝と幸先の良いスタート。
鬼の棲家、B1で連勝をどこまで伸ばせるか。

本譜は、2013.7現在、相居飛車の最新流行系「横歩取り青野流」。
先手が飛車を残した右辺、局地戦となった左辺を制したと思いきや
後手が中央からきれいに切り返しました。


先手木村八段、後手豊島七段。

f:id:nisin:20130722093546g:plain

先手は横歩を取った後、
飛車を3四にとどめて駒組みを進める「青野流」。
ここ数週のレベルで採用数が激増しているそうで、
当方で扱った対局では、
竜王戦本戦トーナメントの▲羽生三冠-△小林七段戦が該当。
序盤から激しい展開となりやすい横歩取りのなかでも
その可燃性が高いことで注目され、
横歩では珍しく、後手がどういった対応を取るのかが迫られる。

f:id:nisin:20130718233823g:plain

先の羽生-小林戦では、
後手も中住まいにしてから横歩を取るという強い応対でしたが
本譜では△8五飛としてあえて桂を跳ねさせてから
飛車を8二に引く。
後手の飛車は結局、最初の位置に戻るわけで
手損ばかりを引いたように思えたりもするのですが
桂を7三に跳ねさせたことで先手の角を使いづらくさせており
後手としては不満のない形に持って行けるという。

f:id:nisin:20130718234050g:plain

後手が刀を鞘に納めた一方、
先手は飛車が高い位置を維持していることを主張したい。
後手の飛車が自陣に収まっているから、4段目に歩が打てる。
3三にと金を作られると、後手は飛車成りを受けられない。
よって2二歩打と窮屈に受ける。これだけ見ると先手が右辺を
抑え込んでいるように見える。

しかし、後手は受けながら玉形が先手玉より固くなっており、
一概に先手が有利とはいえない。

先手は激しくして攻めの形を主張し、後手はおさめて玉形を主張したい。
それぞれの思惑がぶつかる中、どちらが主導権を握れるのか。

いずれにしても、先手は△2二歩と打たせたことを
有利に持っていく必要があり、逆に後手はそれを阻止しなければならない。

f:id:nisin:20130718234319g:plain

後手は飛車をぶつけながら、2四の歩を払う。
これで後手は飛車交換にもなるし
左辺の重しが一気にとれた。
加えて飛車交換の時の△2四同角が
自然と玉頭をにらむ好位置につける。

f:id:nisin:20130718234555g:plain

その角出で狙われる4六の地点。
これを玉で受ける。さすがは木村流。
千駄ヶ谷の受け師ならではの陣頭指揮。
この流れで一応先手の右辺は局面が飽和。
攻防は先手の左辺へと移っていく。

f:id:nisin:20130722095021g:plain

先手は▲8五飛と打って角形両取りから飛車を成り込む。
これが左辺での壮絶な局地戦の開始を告げるゴングとなった。

f:id:nisin:20130722095125g:plain

後手が猛攻、飛車を打ち込んでから角交換を迫る。
▲7七同角△同飛成では後手優勢。
よって、検討室では先手は角交換に応じず、
飛車を取ってしまう手が有望とされていた。

f:id:nisin:20130722095251g:plain

が、ここで先手は意表の角を上がる受け。
検討室ではこの手の評判が非常によかったようだ。
角交換を受けず、事実上△7九飛成を消している。
この局地戦は、先手が制したのではないかとみられていた。
そして、ここを落ち着かせれば、8一の竜周辺から
後手玉へと迫る流れが作れる。
しかし――

f:id:nisin:20130718234740g:plain

豊島七段は局地ではなく、盤全体を見ていた。
先手左辺に見切りをつけて中央突破を挑む。
右、左と揺さぶっておいて、玉を捕えに行く。
玉は逃げるしかないが、そうなれば後手は
8八で動きづらかった飛車を中央で切る流れができる。

このタイミングが絶妙だった。
この一手で局面は左辺の攻防戦ではなく、
一気に先手玉が寄るか寄らないかの勝負になってしまっている。

一方、先手は8一の竜が身動きとれずにいるのが痛い。
左辺の攻防が中心であれば、いずれ受けに利く可能性もあったが
突然の中央突破に置き去りにされてしまった。
攻めては、後手の玉形には手つかずで、迫るにも時間がかかりそうだ。

以下、先手も必死の粘りをみせるが。

f:id:nisin:20130718235034g:plain

しかし、後手が的確に迫り、これが投了図。
先の天王山の桂打ち以降、先手によくなる変化はないようで
最後はその桂が4七に跳ねて4枚の寄せ。

後手・豊島七段が見事な切り返しを見せて
最後は圧倒しました。

敗れた木村八段は1勝1敗。
強気に攻めながら、所々で攻撃的な受けを見せ、
十分に見せ場を作ったのですが、結果的にその強い受けが
あの桂打ちの筋を作ることとなってしまい、
一気に寄せられてしまった感があります。

一方、これで豊島七段は開幕3連勝。
昇級に向けて大きな勝利となりました。

個人的には、豊島七段の独特なリズム感に魅入られました。
序盤は局面をおさめに行きながら、少しずつペースをつかみ、
先手がわずかな隙を見せれば、一気に切り返す。

なにより、視線が広い。
先手の右辺、左辺でそれぞれ相手に形を作られたと思ったが
それは「本殿」を攻めるためのおとりに過ぎなかった。
しかもそこでの攻防が真に迫っているため対応を強いられるが
その刹那に切り返される。

静謐にして華麗。
ここのところ豊島七段の棋譜に触れる機会が多いですが
淡々としているようで、きれいな筋で相手に迫っている。
いまのところ、そんな印象を持っています。