第72期順位戦B級1組3回戦 木村一基八段-豊島将之七段 天王山からの跳躍者。
↑まとめました。
総当たりのため、対戦数の多い順位戦B級1組は、
7/18にはもう3回戦一斉対局。
今回のモバイル中継局は、本局と山崎七段-松尾七段戦で、
モバイルでの登場棋士がすでに全かぶりという、
すごい偏り方になっております。(↑のまとめ参照)
なにこの紹介棋士の偏り方。一応、昇級候補の対局を中心に
紹介しているということなんでしょうか。謎だ。
先手の木村八段は、1回戦抜け番の後
2回戦で山崎七段との相掛かり戦を逆転勝ち。
緒戦を飾っています。
一方、連続一期抜けでA級昇級を目指す豊島七段は
1回戦で藤井九段を、2回戦で高橋九段を、
それぞれ撃破、連勝と幸先の良いスタート。
鬼の棲家、B1で連勝をどこまで伸ばせるか。
本譜は、2013.7現在、相居飛車の最新流行系「横歩取り青野流」。
先手が飛車を残した右辺、局地戦となった左辺を制したと思いきや
後手が中央からきれいに切り返しました。
先手木村八段、後手豊島七段。
先手は横歩を取った後、
飛車を3四にとどめて駒組みを進める「青野流」。
ここ数週のレベルで採用数が激増しているそうで、
当方で扱った対局では、
竜王戦本戦トーナメントの▲羽生三冠-△小林七段戦が該当。
序盤から激しい展開となりやすい横歩取りのなかでも
その可燃性が高いことで注目され、
横歩では珍しく、後手がどういった対応を取るのかが迫られる。
先の羽生-小林戦では、
後手も中住まいにしてから横歩を取るという強い応対でしたが
本譜では△8五飛としてあえて桂を跳ねさせてから
飛車を8二に引く。
後手の飛車は結局、最初の位置に戻るわけで
手損ばかりを引いたように思えたりもするのですが
桂を7三に跳ねさせたことで先手の角を使いづらくさせており
後手としては不満のない形に持って行けるという。
後手が刀を鞘に納めた一方、
先手は飛車が高い位置を維持していることを主張したい。
後手の飛車が自陣に収まっているから、4段目に歩が打てる。
3三にと金を作られると、後手は飛車成りを受けられない。
よって2二歩打と窮屈に受ける。これだけ見ると先手が右辺を
抑え込んでいるように見える。
しかし、後手は受けながら玉形が先手玉より固くなっており、
一概に先手が有利とはいえない。
先手は激しくして攻めの形を主張し、後手はおさめて玉形を主張したい。
それぞれの思惑がぶつかる中、どちらが主導権を握れるのか。
いずれにしても、先手は△2二歩と打たせたことを
有利に持っていく必要があり、逆に後手はそれを阻止しなければならない。
後手は飛車をぶつけながら、2四の歩を払う。
これで後手は飛車交換にもなるし
左辺の重しが一気にとれた。
加えて飛車交換の時の△2四同角が
自然と玉頭をにらむ好位置につける。
その角出で狙われる4六の地点。
これを玉で受ける。さすがは木村流。
千駄ヶ谷の受け師ならではの陣頭指揮。
この流れで一応先手の右辺は局面が飽和。
攻防は先手の左辺へと移っていく。
先手は▲8五飛と打って角形両取りから飛車を成り込む。
これが左辺での壮絶な局地戦の開始を告げるゴングとなった。
後手が猛攻、飛車を打ち込んでから角交換を迫る。
▲7七同角△同飛成では後手優勢。
よって、検討室では先手は角交換に応じず、
飛車を取ってしまう手が有望とされていた。
が、ここで先手は意表の角を上がる受け。
検討室ではこの手の評判が非常によかったようだ。
角交換を受けず、事実上△7九飛成を消している。
この局地戦は、先手が制したのではないかとみられていた。
そして、ここを落ち着かせれば、8一の竜周辺から
後手玉へと迫る流れが作れる。
しかし――
豊島七段は局地ではなく、盤全体を見ていた。
先手左辺に見切りをつけて中央突破を挑む。
右、左と揺さぶっておいて、玉を捕えに行く。
玉は逃げるしかないが、そうなれば後手は
8八で動きづらかった飛車を中央で切る流れができる。
このタイミングが絶妙だった。
この一手で局面は左辺の攻防戦ではなく、
一気に先手玉が寄るか寄らないかの勝負になってしまっている。
一方、先手は8一の竜が身動きとれずにいるのが痛い。
左辺の攻防が中心であれば、いずれ受けに利く可能性もあったが
突然の中央突破に置き去りにされてしまった。
攻めては、後手の玉形には手つかずで、迫るにも時間がかかりそうだ。
以下、先手も必死の粘りをみせるが。
しかし、後手が的確に迫り、これが投了図。
先の天王山の桂打ち以降、先手によくなる変化はないようで
最後はその桂が4七に跳ねて4枚の寄せ。
後手・豊島七段が見事な切り返しを見せて
最後は圧倒しました。
敗れた木村八段は1勝1敗。
強気に攻めながら、所々で攻撃的な受けを見せ、
十分に見せ場を作ったのですが、結果的にその強い受けが
あの桂打ちの筋を作ることとなってしまい、
一気に寄せられてしまった感があります。
一方、これで豊島七段は開幕3連勝。
昇級に向けて大きな勝利となりました。
個人的には、豊島七段の独特なリズム感に魅入られました。
序盤は局面をおさめに行きながら、少しずつペースをつかみ、
先手がわずかな隙を見せれば、一気に切り返す。
なにより、視線が広い。
先手の右辺、左辺でそれぞれ相手に形を作られたと思ったが
それは「本殿」を攻めるためのおとりに過ぎなかった。
しかもそこでの攻防が真に迫っているため対応を強いられるが
その刹那に切り返される。
静謐にして華麗。
ここのところ豊島七段の棋譜に触れる機会が多いですが
淡々としているようで、きれいな筋で相手に迫っている。
いまのところ、そんな印象を持っています。